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【死んでも書きたい話】 拘束中に食う誕生日ケーキ

安田純平の死んでも書きたい話
今回は日記の2016年3月16日~25日までです。 日記を見ていると「もっとうまく対応できなかったか」などと悔やむことが多く、日記を手に取ることすら避けるようになってしまっています。現在も旅券が発給されず、拘束中から流されてきたさまざまなデマをいまもぶつけてくる人もいますが、いずれもそもそもは当時の私の行動にミスがあったからこそ発生していることであって、その考えが消えることはなかなかないだろうと思います。 英国が拠点のNGO「Hostage international」は人質事件の際の家族や解放後の本人への支援を行っている団体です。彼らは先日、「人質経験者が自分を恥に思う気持ちは最も苦しいもののひとつであり、それを止める努力をしよう」という趣旨の文章を公表しました。「あくまでも拘束者の側は犯罪者なのであり、人質にされた側が自分を責める必要はない」というものです。人質経験者や家族と協力して運営されている団体だからこそ、こうした呼びかけをしつつ実質的な支援ができるのだろうと思います。 https://www.hostageinternational.org/news/hostage-shaming-needs-to-stop-you-can-help/ 日本の場合はそうした団体はなく、人質経験者は完全に裸の状態で野原に立っているような状態です。イラク人質事件の高遠菜穂子さんや、シリアで同じ施設に拘束されていたカナダ人のショーン・ムーアら、人質経験者と個人的に連絡を取り合うことはしていますが、当事者にはそうした支援体制が必要であるという一般論でも、私が言う時点で一般論ではなくなってしまう側面があり、なかなか言いにくい事情があります。 日記を全てまとめ、事件の検証もすませて一段落させてから、そうしたことにも多少かかわってもよいかと考えていますが、なかなか気持ちが動いてこなかったのが実際のところです。 とはいってももうすぐ3年になります。シリアでの人質経験者の多くは3年近くしてから書籍を出しており、それなりに時間がかかるものなのだと言い訳に利用していますが、そろそろなんとかしたいと思っています。 日本には支援体制こそありませんが、こうして読んでいただいているみなさんに支えられていると思っています。ありがとうございます。 【2016年3月16日(水曜日)】=拘束260日目 ついにオレの誕生日。まさかここまで未練たらしく引っ張られるとは。あのビデオでは日付の証明にはならず、日本側がやり取りするにはまだ生存証明が必要。やはり映像ではメッセージを送れない。部屋にあった針金の先で額に「+ケX(たす け バツ=救けるな)」と読めるよう強く引っ掻いたのだが書けたかどうか。 ※2016年3月17日に報道された、私が映された最初の動画。家族への「会いたい」といった呼びかけと、映画のセリフのような意味不明の詩のようなものを読まされた。帰国後にネットに残っていた画像を見たが、額にミミズ腫れくらいにはなると期待した「+ケX」は全く読み取れない。 生存証明とは、人質を実際に拘束している相手を特定し、人質が生きていることを確認するために、救出側が拘束者から得なければならない。動画や画像を証拠にする場合、撮影日が直近であることを証明するために新しい新聞を人質に持たせたり、テレビ画面を同時に映したりして日付の証明をする。これがなければ例えば半年前の撮影かもしれず、「生きている証明」とはみなされない。

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  • ジャーナリスト安田純平が現場で見たり聞いたりした話を書いていきます。まずは、シリアで人質にされていた3年4カ月間やその後のことを、獄中でしたためた日記などをもとに綴っていきます。
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