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週刊 Life is Beautiful 2021年8月10日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん 救急搬送支援アプリ 東京都で、自宅療養中の人が症状が悪化したので救急車を呼んだところ、受け入れ先が見つかるまで、救急隊員が100箇所以上に電話をしなければならず、結局入院先が見つかるまで8時間かかった、という記事を受けて、Twitter で次のようにつぶやいたところ、大きな反響がありました。 不思議でならないのは、これほどテクノロジーが進歩した時代に、救急隊員が受け入れ先の病院を探して電話をかけまくる、というアナログな手法に頼っていることです。患者の容態を入力したら瞬時で受け入れ先の病院を教えてくれるアプリを作ることは、決して難しくありません。 残念なことに、コメントの多くが「医療のことを理解していないエンジニアの独りよがり」というネガティブなもので、日本のインターネット特有の「嫌な部分」を象徴する典型的な「炎上」でした。 ブログを長年書いていて、「炎上」には慣れっこなので、精神的に傷つくことはありませんが、それだけ日本には他人を傷つけることでしか自分の存在意義を見つけられない不幸な人が多いのかと思うと、とても悲しくなります。 しかし、そんな中にも、「こんなアプリが既にある」「アプリはあるけど使われていない」などの建設的な情報も集まって来て、とても良い勉強になりました。 「統合救急搬送情報共有システム : 富士通九州システムズ (fujitsu.com)」は富士通が開発したクラウドを利用したアプリです。ウェブサイトを見る限りは、一見しっかりと作られているようですが、実際にどのくらい利用されているのか、役に立っているのかは不明です。 「大阪府救急医療搬送支援・情報収集・収集分析システム(ORION)の開発と課題 (mhlw.go.jp)」は、大阪市で2013年に導入されたORION(Osaka emergency information Research Intelligent Operation Network system)というシステムにより、搬送困難例(=たらい回し)の回数を実際に減少させることが可能になったという、良い事例の紹介です。 「救急車の“たらい回し”を解消せよ! 佐賀県のiPadを使った取り組み」は、佐賀県で救急車50台にiPadを配備し、ネット経由で病院の受け入れ状況を把握できるようにした仕組み(99さがネット)の紹介です。これが導入されるまでは、救急車は片っ端から病院に電話をかけて受け入れてもらえる病院を探すしかなかったのが、この仕組みの導入で、その手間が大幅に減ったそうです。 素晴らしいのは、病院側の手間を省略するため、過去24時間の搬送実績から、病院の受け入れ状況を予測する仕組みを導入している点で、これはとても参考になります。このシステムの導入により、「搬送時間を平均で1分短縮した」「運営費を年4000万円節約した」などの結果を出しており、他の自治体の人たちにとっても良い教材になると思います。 しかし、この手のシステムがありながらも、結局は救急隊員が電話を片っぱしからかけて受け入れ先を探さなければいけないのには、それなりの理由があるのだと思います。せっかくシステム化しても、受け入れ先の病院が忙しい・人手が足りないなどの理由で、空きベッド情報を更新できていない、もしくは、意図的に常に受け入れ不可にして放置してある、などの状況であれば宝の持ち腐れです。 とは言え、実際に運用されているシステムには、現場の声も反映されているので、既存のものをベースに作るのであれば、私が調査した限りでは一番実用的に見える「99さがねっと」を(佐賀県もしくは開発した会社から買い取るなどして)オープンソース化して育てる、もしくは、このシステムと同等の機能を最新の技術(例えば、Firebase と Vue/React あたり)で作り直すところから始めるのが良いように思います(「99さがねっと」はフロントエンドは、JQuery で作られています)。 もし、ゼロベースで作るのであれば、なぜ「かたっぱしから電話」というアナログな方法がいまだに使われている理由をちゃんと解析した上で、「電話のように導入しやすく、かつ、電話より少し便利」なシステムを提供し、そこから徐々に改良していく、というのもあると思います。 この手のシステムは、そもそもシステムの導入に抵抗する人が必ずいるし、実際に導入しても期待した通りの使い方をしてくれない人が多いので、まずはシステムの導入の敷居を思いっきり下げ、実際に現場で使いながら少しづつ改良するのが良いと思います。

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