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第141号(2021年8月16日) タリバンとロシア 反射的コントロールとは ほか

小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略
存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。 【目次】 ●インサイト アフガニスタン情勢急変 仁義を切ったタリバンをロシアは当面静観 ●今週のニュース ロシア軍に新たなイスカンデル-M旅団 ●NEW CLIPS ロシア軍所属のオリンピック選手たちをショイグ国防相が表彰 ●NEW BOOKS 真野森作『「チェチェン化」するロシア』ほか ●編集後記 ワクチン第一回受けてきました =============================================== 【インサイト】アフガニスタン情勢急変 仁義を切ったタリバンをロシアは当面静観  8月15日、アフガニスタンのガニ大統領が首都カブールを脱出し、隣国タジキスタンに逃れたことが判明しました。これによってタリバンに包囲されていたカブールは権力の真空状態となり、既に市内にはタリバンの部隊が進駐してきているようです。  また、これ以前にタリバンは全土の主要都市をほとんど掌握し、最後まで抵抗を続けていた「ヘラートのライオン」こと軍閥指導者イスマール・ハーンもタリバンに投降したほか、北部同盟を率いたドスタム将軍もウズベキスタンへ逃亡していました(ドスタムは民族的にはウズベク人)。  従って、ガニ大統領の逃亡とカブールの陥落は、タリバンによるアフガニスタンの掌握---「タリバニスタン」化を意味するものと言えるでしょう。  ちなみにドスタムの私邸はタリバンに占拠され、ティーパーティの会場になったようです。  <https://twitter.com/WajSKhan/status/1426672345649983488?s=20>  米国は2001年以降の20年間で7780億ドルもの戦費と注ぎ込み、2420人の戦死者と1万9950人の負傷者を出しながら、結局はタリバンを壊滅させることができませんでした。  その理由については理論的に、あるいは地域的事情から様々な説明が可能だと思いますが、いずれにしても宗教的信念と土着的結び付きによって支えられ、外国の支援(パキスタン情報部)を受けながら峻険な山岳地形を利用するゲリラ勢力を打倒するのが極めて困難だということが改めて確認されたのはたしかでしょう。  これは1980年代のソ連が経験したことでもありました。  いずれにしても、アフガニスタンはこれで名実ともに「タリバニスタン」になったのであり、おそらくこの体制はしばらく続くのではないでしょうか。タリバンとしては最終的にサウジアラビアみたいな感じになりたいのかもしれません。  そこで問題になるのはロシアの出方です。  前号(https://note.com/cccp1917/n/n7cea9745b162)の「今週のニュース」コーナーで紹介したように、ロシアは8月にタジキスタン及びウズベキスタンと共同で三ヶ国軍事演習を実施したほか、両国との二国間演習も別個に行っています。演習はいずれもアフガニスタンとの国境付近で行われ、内容は過激派武装勢力の侵入阻止であったという点でも共通していますから、タリバンの脅威を意識したものであることは間違いないでしょう。  ロシアや旧ソ連の中央アジア諸国が念頭に置いているのは、アフガニスタンを根城にしていたウズベキスタン・イスラム運動(IMU)が1999-2000年に掛けてフェルガーナ盆地に侵入し、一時的に領域支配を行った事例であると思われます。  こうした事態になった場合、キルギスタンとタジキスタンの軍事力はおそらくほとんどアテにならないでしょう。両国の常備兵力はそれぞれ1万人程度に過ぎず、装備・練度ともに高い状態とは言えません。  この点は当事国も率直に認めています。ロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約機構(CSTO)のタジキスタン代表を務めるハッサン・スルタノフは、先月、CSTOの会合で次のように述べていました(https://iz.ru/1189995/2021-07-07/tadzhikistan-vyrazil-nadezhdu-na-pomoshch-odkb-po-afganistanu)。 ・タジキスタンはアフガニスタンと最も長い国境を接する国である ・タジキスタンとしても必要な措置は講じている(予備役2万人の動員等) ・しかし、対アフガン国境は人里離れた山岳地帯であり、タジキスタン単独では対処しきれない ・CSTOの支援に期待する  また、タジキスタンについてはアフガニスタンとの人的つながりが非常に濃厚であり、軍や治安機関内にイスラム過激派のシンパが少なからず居るとされるのも問題です(2015年には内務省治安部隊(OMON)の司令官が失踪し、ISに参加したという事例まであり)。  したがって、現実に過激派勢力がアフガニスタン側から流入してきた場合、実際に頼りになる兵力は以下の通りということになるでしょう。

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  • ロシアは今、世界情勢の中で台風の目になりつつあります。 ウクライナやシリアへの軍事介入、米国大統領選への干渉、英国での化学兵器攻撃など、ロシアのことをニュースで目にしない日はないと言ってもよくなりました。 そのロシアが何を考えているのか、世界をどうしようとしているのかについて、軍事と安全保障を切り口に考えていくメルマガです。 読者からの質問コーナーに加えて毎週のロシア軍事情勢ニュースも配信します。
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