■なぜダイエットは「失敗」するのか
「肥満は個人の責任」という。ダイエットの失敗は意思の弱さに原
因があると言われている。だが、それは大きな誤解だ。体重の増減
には様々な要因が重なっている。その多くは意思とは無関係だ。
世の中には、太りやすい人もいれば、いくら食べても死ぬまで糸の
ように細い人もいる。私たちは、みな違った環境下で生をうけ、体
重の増え方も人それぞれ異なるのだ。
水分バランスや呼吸、体温を調整するように、人の体は体重をコン
トロールする。だが、これは必ずしも遺伝学的・生物学的だけの問
題ではない。他の要因も遺伝子と一緒に体重に影響を及ぼす。
要因には、食事の内容や運動習慣のように、自分の意思でコントロ
ールできるものもあれば、意思の及ばないものもある。特に幼児期
の経験は、数十年後の体の働きを左右する大きな影響力を持つ。
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肥満の重要な原因のひとつに、幼児期の過ごし方がある。たとえば、
穏やかで愛情に恵まれた家庭で育ったか、騒々しい環境で愛情に恵
まれず育ったかは肥満に大きくかかわる。
理想の体重を手に入れるには、体の仕組みと、体重を維持するのに
必要な知識を理解すべきだ。これまでの伝統的なダイエット方法は、
ひたすら死に物狂いに減量に励むだけだった。
ライフスタイルも、もちろんダイエットに大きな役割を果たす。特
に食事、つまり自分が食べるもの、食べ方、食べるという行為その
ものが減量に大きくかかわる。
食欲や満腹感、空腹感など軽視しがちな体のシグナルを理解するこ
とだ。「スーパージャンクフード」と呼ばれる現代の食品は問題だ。
高カロリーだが栄養に乏しく、砂糖と油と塩分が味つけに使われる。
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体重を減らすことは、食事制限を数週間続ければできるほど簡単で
はない。体は、体重が減ることに執拗に抵抗し、脂肪細胞に蓄えら
れた高カロリー成分を放出するのを嫌う。
ダイエットの失敗は、個人の性格が原因ではない。体の動きを理解
できれば、より効果的なダイエットへの扉が開くはずだ。
人間には、特殊な能力が備わっている。胎児のとき、母親の子宮は
脂肪を蓄えるのに最高の環境だった。事実、生まれたばかりの人間
の脂肪量は、哺乳動物のなかでトップクラスだ。
つまり、人間は、生理学的に脂肪を蓄える優等生なのだ。脂肪は大
きなエネルギー源だ。特に乳幼児の生命維持の手段としてたいへん
優れているのだ。
また、体温を維持し、重要な内臓器官を外部の衝撃から守るのも脂
肪の働きだ。さらに、大量のエネルギーを消費する脳にエネルギー
を供給するのも脂肪だ。
脂肪があまりに少ないと、繁殖力の低下やホルモンバランスの悪化
を引き起こす可能性がある。つまり、体が減量に抵抗するのは当然
のことなのだ。
★
「食事を減らして運動を増やす」というダイエットの常套句はきっ
ぱり捨てることだ。そして、体の機能についてもっと深く探求する
べきだ。
これまで、多くの研究者が伝統的なダイエット方法の改良に取り組
み、運動量を増やして食事を控える従来のやり方に手を加えた方法
を生み出してきた。だが、残念ながらどれもそこまで効果はない。
特にカロリー制限に特化した方法は役に立たないことがわかってい
る。だから、いったん立ち止まり「戦略」を変えるべきだ。さもな
ければ、これからもダイエットに失敗しつづけることになる。
減らした体重を長期的に維持できている人も、カロリー制限などの
厳しいルールで慢性的な不眠症に陥っていることがある。誰もそん
な生活をしたいとは思わないし、できる人も少ないはずだ。
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