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【Vol.393】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「先輩後輩カルチャー、見直しのとき」  この社会は、どんどん実力主義になっています。ですから、年齢や性別、 出身国といった属性で人材配置をすることはもうなくなっているのです。  具体的には、年齢が下の人物が上の人物の管理監督育成を行うということ が当たり前になっています。そこで、多くの職場で行われているのが「互い に丁寧語で話す」という習慣です。つまり「ですます」です。若い人はこの 「ですます」を敬語だといって「冷たいとか、被支配の表現で屈辱だ」と思 うようですが、そもそも「ですます」というのは敬語ではなく丁寧語であり、 相互に「ややフォーマル、お互いに敬意、適切な距離感」を表現して相手の 尊厳を犯さないようにする話法です。  実社会がそうなっているのに、中学1年生から大学4年生の10年間だけ は、20世紀よりももっと厳しくなった「先輩後輩のヒエラルキー」に縛ら れているというのはナンセンスだと思います。仮に、今回の硫酸事件の背景 に「タメ口、呼び捨て」問題があるとしたら、それは「先輩と後輩の間が多 少ギクシャクした場合に、お互いにですます調で敬意と距離を置いて行く」 という知恵が、若い人に教えられてないということにあると思います。  先輩後輩カルチャーには別の問題点もあります。それはリーダーシップを 堕落させるという点です。リーダーシップの基本というのは、人の嫌がる仕 事を率先して行うことで、部下の敬愛を受けつつ部下の自発性を引き出すと いうスキルであり、態度であると思います。  これが本来のリーダーシップであるならば、年齢が上であることで自動的 に獲得した権威を濫用し続けるリーダーシップは、リーダーシップですらあ りません。それは単なるパワハラです。そして、メンバーの自発性を著しく 損ね、組織の効率をダメにするのは間違いありません。それ以前に、職場な どの雰囲気を著しく損ねます。  今回、日本ハム・ファイターズで暴力事件を起こし、読売巨人軍に移籍し た中田翔選手の問題も、この先輩後輩のヒエラルキーに縛られた結果だと思 います。正に実力主義であるスポーツの世界では、年齢や入団年次の序列を 若い人が超えて行くことはいくらでもあることです。  そうした場合に、自尊心の欠損を「後輩へのいじり」でごまかし、抗議を 受けたら逆ギレして暴力に及ぶというのは、パワハラ上司と全く変わりませ ん。子供達の模範となるべきプロ野球選手が、このような「かっこ悪さ」で はどうしようもないと思います。  もう少し広く考えて、日本のサービス業などがある種の「ブラック性」を 克服できないのは、こうした先輩後輩カルチャーに根ざしている、そんな反 省も必要ではないでしょうか。よく言われる「体育会カルチャー」というの も同じです。(続く)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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