池上俊一さんの大著『ヨーロッパ中世の想像界』(名古屋大学出版会、2020年)は、「イマジネール大全」というオビ文の売り文句からも想像できるように、なかなか捉えどころのない1000頁を超える大著です。この本の書評を引きうけましたが、その準備段階として読書ノートをとっていくことにしました。今回のメルマガは、その序章と終章の部分を抽出しました。
この本の理念や目標、そして成果の分析が端的に示されている部分であり、序章と終了のあいだで展開される本体20章にわたるテーマごとの分析の「道しるべ」となるべきものだと思われます。この一連の断片的な抜書きから、僕なりの視点で気になったこと、それらがこれから書くことになる書評にどのようにつながっていくのかを観察できるのではないでしょうか。
【序章】
【想像界の歴史学】
本書は、ヨーロッパ中世の「想像界」 imaginaire の全体像を、その歴史的変容とともに明らかにすることを目指している。
ヨーロッパ中世に接近するときには、「イマジネール(想像界)」という媒質の特徴を十分に理解しなければ、人々の思考の理由も行為の意味も分からない。想像界は、現実界と無関係であるどころか、現実の生まれてくる母胎である。
「社会史」ブームが去った今、その華々しい一翼をフランスで担っていたイマジネールの歴史学は、指導的な立場にいたジャック・ルゴフが他界したこともあり、衰えは隠せない。
ヨーロッパ中世の想像界の全体構造を解明してみたい。
【概念と方法】
かつて『ロマネスク世界論』(1999年)において、心性を考察するのに「思考」「感情」「感覚」「想像」の四つの局面に分けて議論を進めた。
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