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週刊 Life is Beautiful 2021年10月19日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん NFTアプリの開発を始めました ビットコインに代表される暗号通貨に関しては、これまで私はとても否定的でした。金融資産として持つにはあまりにも投機的で、最も有効活用されているのは、マネーロンダリング、不法送金、身代金など非合法なものばかりです。 そんな中で誕生したNFT(Non Fungible Token)に関しても、私は静観していました。NFTとは、特定の画像や動画などのデジタルアセットに「公式な持ち主」という権利を付与するものですが、容易にコピーが可能なデジタルアセットの所有権とは、実質的には「私は持ち主だ」と自慢する以外の一切のメリットがないものだからです。 それでもNFT市場がこれほどまでに盛り上がっているのは、レアな切手やベースボールカードの値段が釣り上がるのと全く同じ理由で、「将来、もっと高い値段で売れるかもしれない」という投機的な心理が働いているだけなのです。 つまり、暗号通貨も暗号通貨から生まれたNFTも、それを持つことによる(配当や家賃のような)メリットは一切なく、買った時の値段より高く売ることだけを目的とした、100%投機的な資産でしかないのです。 ところが最近になって、NFTに対する見方が少し変わって来ました。VC(ベンチャー投資家)をしている私の長男が、NFT関連のビジネスをしているベンチャー企業に投資したらしく、会うたびに「NFTは凄い」と主張するのです。話を聞いてみると、NFTにはコレクションという概念があり、特定のコレクションに属するNFTを持っている人に特定の権利を付与することにより、そこでこれまでにない新しい形の「メンバーシップ・ビジネス」が出来ると言うのです。 面白いアイデアだとは思いましたが、この時点でもまだ私は半信半疑でした。 すると彼は、そこに実際にビジネスが成立することを証明するために、自分自身もNFTを発行する準備をしているというのです。24x24のドット絵のキャラクターを1万個作り、それをNFTのコレクションとして発行すると言うのです。その時は「そんなの買う奴がいるのか?」と思いましたが、彼が楽しんでいるならそれも悪くないと思いました。 そのまますっかり忘れていたのですが、先週になって、彼から「NFTを金曜日に売り出すことにした、価格は一つ100ドルにしようと考えている。そこで集まった資金を活用して、ゲームを作るつもりだ」と連絡を受けたのです。 ゲームの企画書があるというので、目を通してみると、なかなか面白そうです。彼が発行したNFTを持つ1万人のユーザーが、大きなマップの中で、サイコロを振って「すごろく」をするのです。「モノポリ」「ライフゲーム」の盤面を巨大な2次元空間に広げたもので、日本人には「桃太郎電鉄」の方がイメージしやすいかも知れません。 彼はこのゲームを提供することにより(正確には、ゲームの提供を約束することにより)、NFTの持ち主に対して価値を提供し、NFTの発行(イニシャル・セール)を成功させようとしているのです。 彼の思惑通りに、1万個のNFTを一つ100ドルで販売することに成功すれば、$1 million (1億円強)のお金が入って来るので、それで開発者を雇うことも可能だし、その後も、NFTが取引されるたびに、彼には 2.5% の手数料が入ってくるので、それを活用して、ゲーム内で賞金や賞品を提供することすら可能になります。 この時点で、彼がやろうとしていることがようやく理解できました。NFTを活用したクラウドファンディング(プリセール)なのです。彼が現時点で提供できるのは、1万個のキャラクターとゲームの企画のみ。そのコンセプトが気に入った人がNFTを買うことにより、ゲームの開発をサポートし、出来たゲームを遊ぶことが出来るのです。 通常のクラウドファンディングと違うのは、「ゲームを遊ぶ権利」を転売出来る点です。実際に面白いゲームが完成し、コミュニティが盛り上がれば、転売価格も上昇するため、キャピタルゲインを得ることすら可能なのです。 通常のゲームであれば、ゲームが完成した時点でユーザーに届け、そこで開発は終了しますが、NFTを使ったオンラインゲームの場合は、NFTの販売が成立した時点で、コミュニティが作られるため、開発のプロセスが通常のゲームと大いに異なることになります。 NFTの所有者には、「より面白いゲームを作って欲しい」という強いインセンティブが働くため、アイデアもたくさん出してくれるし、ベータテストにも喜んで協力してくれるのです。開発者側にも、「より面白いゲームを作って、NFTの市場価格を価値を高めよう(それによって、より多くの手数料を稼ごう)」というインセンティブが働くため、ICO(Initial Coin Offering)のような「上場ゴールの売り逃げ」が発生しにくいのです。 とは言え、NFTのイニシャル・セールに成功するかどうかは、彼がいかに説得力のあるストーリーを語ってコミュニティを形成できるかにかかっています。そこに関して、私に出来ることないので、彼に任せておきました。 そして金曜日になり、すぐに彼から「あっという間に完売した!」という連絡が来ました。(NFTの売買に使われる)Ethereum の相場が動いたこともあり、販売価格は1つあたり $160、総売り上げは $1.6 million (約1億7千万円)となりました。 NFTを活用したマルチプレーヤー・ゲームのクラウドファンディングの成功です!(PixelBeasts (Beastopia)) この結果を聞いたら、開発者として関わらないわけにはいきません。ちょうど妻よりも一歩先にハワイに来ていることもあり、時間は自由につかえるので、土日を利用して一気にゲームの実装を進めることにしました。 開発資金があれば、エンジニアを雇うことは可能ですが、エンジニアの能力はさまざまなので、質の悪いエンジニアに作らせたらとんでもないものが出来てしまいます。そこで、もっとも大切な認証を含んだアプリケーション全体の設計だけはしっかりと作っておき、後から参加したエンジニアが容易に機能を追加出来るように準備しておく必要があると感じたのです。 作り始めて、最初に知ったのは、MetaMask という Ethereum Wallet の存在です(Ethereum は暗号通貨の一つ)。Walletとは暗号通貨をしまっておく「財布」のことです。Coinbase などの「暗号通貨取引所」で購入した暗号通貨は、取引所が管理する Wallet にしまわれるため、ユーザーが直接 Wallet を管理する必要がありません。便利な反面、Coinbase のサーバーがハックされた場合などに、ハッカーに盗まれてしまう可能性があります(実際に、そんな事件が時々発生しています)。また、Wallet の鍵はサービス事業者が持っているため、政府による税務調査などにより、その情報が開示されてしまう可能性があります。 MetaMask はそれとは違って、ユーザーが Wallet を自分自身で管理する仕組みです。Wallet にアクセスするための「鍵」に相当する文字列は自分自身で安全な場所に保管しておく必要がありますが、それさえしっかり出来れば、盗まれることもないし、他の人に中身を知られることもありません。

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