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飯田哲也氏:このままでは日本は脱炭素社会から完全に乗り遅れる[マル激!メールマガジン]

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マル激!メールマガジン 2021年10月20日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1071回) このままでは日本は脱炭素社会から完全に乗り遅れる ゲスト:飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長) ──────────────────────────────────────  世界の現状を聞けば聞くほど、日本の置かれた状況が危機的なことがわかるはずだ。  自民党の総裁選で当初本命視されていた河野太郎氏が、政策討論会などの場で他の3候補から総攻撃を受ける場面が幾度となく見られた。他の候補にしてみれば、一般国民の間で人気が高い河野氏の勢いを止めなければならないという選挙戦術上の判断もあったかもしれないが、それ以上に河野氏の主張する政策の中に今の自民党としてはどうしても看過できないものがあり、それを否定していくことには選挙戦術を越えた重要な意味があった。  それは他でもない、河野氏が明確に打ち出していた脱原発=再生可能エネルギー推進の立場だった。他候補たちは様々な理由をあげて河野氏を攻撃していたが、何のことはない、今の自民党では原発廃止論や化石燃料から再生可能エネルギー(再エネ)へのシフトを主張すること自体が基本的に御法度なのだ。  2011年の原発事故以降、日本がこれから原発をどうするこうすると百家争鳴の議論を繰り返し、その間密かに石炭火力発電所の増設を続ける中、世界では既に再エネへのシフトが揺るぎないものとなっていた。特に太陽光発電は目覚ましい技術革新により、その発電コストは今や原子力はおろか既存の火力発電よりも下がっている。 欧米先進国では全電力消費に占める再エネの割合が軒並み5割を超え、ノルウェーやデンマークにいたってはそのシェアは既に8割を超えている。日本は依然としてアメリカと並び先進国では最低水準の2割前後だ。しかも日本は、明らかな政策ミスにより、これからの再エネ市場の中心を占めることが確実視されている太陽光発電市場の形成に失敗してしまったため、このままでは今後も他の先進国と同じようなペースで太陽光のシェアを伸ばせない可能性が高い。  日本は2011年の原発事故の後、世界よりも10年以上遅れてFIT(電力固定価格買い取り制度)を導入した。出遅れたことの対価は大きいが、後発のメリットとしてせめて先発国の失敗から学ぶことで、回り道をせずに済むはずだった。ところが日本はまるで悪い見本を真似るかのように、先発国が犯した失敗をことごとく繰り返したと、再生エネルギー分野の第一人者で環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏は言う。  それは買い取り価格を実際に発電を始める時点ではなく、国が計画を認定した時点の価格で10年間保障する制度にしてしまったため、とりあえず先に認定だけ受けておく事業者が続出してしまい、実際に何年も後になって発電を始めても、認定時の高い価格での買い取りが保証され、そのコストを一般国民が電気料金への上乗せという形で負担しなければならないという、とんでもなく歪んだ制度になってしまった。 しかも、そのような制度の欠陥を見越した事業者が初期段階で一斉に発電事業に参入したため、電力に余剰が生じたり系統が乱れるなどを理由に電力会社が接続を拒否するための口実を与えてしまった。そして、失敗するたびに制度変更を繰り返したために、つぎはぎだらけの歪んだ複雑な制度だけが残ってしまった。  飯田氏によると、制度設計を進めた経産省は担当者が2年ごとにくるくる変わり、その度に事情がよくわかっていない新しい担当者が入ってきたが、彼らは飯田氏のような20年、30年単位で再エネと付き合い世界の事情にも通じている在野の専門家の意見に耳を貸そうとはしなかったと言う。脱炭素化の柱となる太陽光発電の分野で健全な市場の形成に失敗したことのツケは大きい。  飯田氏は産業面でも日本の先行きに大きな不安を覚えるという。ここに来て世界ではEV(電気自動車)化が一気に加速しており、それに呼応して化石燃料車が急激にシェアを落としている。ノルウェーにいたっては何と2022年末に化石燃料車の販売がゼロになるという。 日本ではEV化に乗り遅れたトヨタの影響力が強いため、今いかに日本の自動車産業が危うい状態にあるかについての認識が拡がっていないが、飯田氏は向こう10年間で、それこそ20世紀初頭に馬車が自動車に、21世紀初頭にはガラケーがスマホにあっという間に置き換わったように、世界は猛烈なスピードでEV化にシフトすることが必至だと指摘する。  結局は他の課題と同様に、政権の責任と権限を明確にすること、情報公開や公文書管理を徹底すること、縦割りと縄張り優先の官僚人事制度をあらためることなどが、日本がこの分野で合理的な政策に転換するための条件であり唯一の処方箋だと語る飯田氏と、世界の脱炭素化の潮流と、それとは正反対の方向に向かっているかに見える日本のエネルギー政策の現状、そしてその処方箋などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・自民党総裁選に見る、既得権益を温存するエネルギー政策 ・コストが下がり続ける太陽光発電、なぜ日本だけ広がらないのか ・自動車産業も終わる……日本に処方箋はあるのか ・日本が転換するためには、韓国のようなクラッシュが必要なのか +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■自民党総裁選に見る、既得権益を温存するエネルギー政策 神保: 衆議院議員総選挙が迫るなか、今回はほとんど争点になっていないという問題も含めて、エネルギー関連の議論をしたいと思います。ゲストはマル激ではお馴染み、環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さんです。さっそくですが、飯田さんは今回の解散劇について、どうご覧になっていますか。 飯田: 解散は最初から決まっていたので、しょせん茶番劇ですが、環境エネルギー、原発に関連するところで言えば、菅政権で外れた今井尚哉さんが内閣官房参与に戻り、経産省内閣が戻ってきたという感じです。甘利明さんが幹事長として中心に座っていることも含めて、とことん古い政策を貫くぞと。 神保: 菅政権は、政権のスタイルとしては安倍政権のままでしたが、河野太郎さんが入ってきて、デジタルとカーボンだけはやらせていました。 飯田: 政治構図で言えばまさにあれが大阪城の真田丸で、河野さんがいて、小泉進次郎さんもいて、エネルギー政策についてここまで突っ込んだことはなかった。それが今回、見事に切り離されました。

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  • ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、毎週の主要なニュースや争点を、当事者や専門家とともに独自のアングルから徹底的に掘り下げる『マル激トーク・オン・ディマンド』の活字版です。世界がどう変わろうとしてるのか、日本で何が起きているのかを深く知りたい方には、必読です。
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