存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。
【目次】
●今週のニュース シリアでロシア航空部隊の新たな大規模展開? ほか
●NEW BOOKS 北岡伸一『西太平洋連合のすすめ』
●編集後記 お布団から出られませんでした(出られませんでした)
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【今週のニュース】シリアでロシア航空部隊の新たな大規模展開? ほか
・中央アジアへの武器輸出
『TASS』2021年11月2日 <
https://tass.ru/ekonomika/12823577>
連邦軍事技術協力庁(FSVTS)のドミトリー・シュガーエフ長官は、2021年中にカザフスタン及びウズベキスタンに多数の武器供与を行ったことを明らかにした。同長官の発言によると、その主なものはSu-30SM戦闘爆撃機、Mi-35M武装ヘリコプター、ブーク-M2E防空システム、BTR-80/82A装甲兵員輸送車、オルラン-10E無人航空機、タイフーン-K耐地雷装甲車、火器であるとされている。
・ロシアがシリアのトルコ国境で「第二のフメイミム」基地を建設中
『レポルチョール』2021年11月1日 <
https://topcor.ru/22426-vtoroj-hmejmim-rossija-suschestvenno-usilila-aviabazu-v-jel-kamyshly.html>
ロシアのネットメディア『レポルチョール』(レポーター)が、シリアにおいてロシア航空宇宙軍が新たな動きを見せていることを報じている。問題の記事によると、トルコ国境からわずか5kmの位置にあるシリア北東部のエル・カミシュリの飛行場にSu-34戦闘爆撃機12機、Su-35S戦闘機5機、MiG-29戦闘機数機、Ka-52偵察・攻撃ヘリコプター2機が展開したという。
従来、シリアにおけるロシア空軍の一大拠点は地中海沿岸のラタキア県にあるフメイミム航空基地であり、エル・カミシュリには少数のヘリ部隊が展開しているだけであった。実際、筆者の利用している衛星画像サービス「Secure Watch」で同飛行場を「偵察」してみると、10月6日時点ではMi-8系統のヘリが1機とKa-52が2機認められるだけであり、駐機場はほとんど空である。したがって、上記の動きは10月末から11月1日までのごく最近起きたことであろう。
その真偽や、ロシア側の思惑は現時点でははっきりしない。イドリブの本格的な攻略を狙って、という考え方も成り立たないではないだろうが、フメイミムとエル・カミシュリではイドリブまでの距離にほとんど違いはなく、攻撃拠点を移しても整備や補給のための人員・物資を移転させるコストばかりが嵩みそうである。
さらに言えば、イドリブがいまだにアサド政権の支配下に復帰していない最大の理由はトルコの後押しを得ているからであって、そのイドリブを攻撃するためにトルコ領の直近に策源地を置くというのはどうも軍事的に不可解である。
このように考えると、今回のエル・カミシュリはトルコに対する何らかのメッセージ(戦略的コミュニケーション)である可能性が高いように思われる。第一に考えられるのは、イドリブに対して何らかの大規模な軍事的行動を起こすに際しての警告を発することであろう。あるいは、ウクライナ政府がドンバスでの空爆にトルコ製のバイラクタルTB.2無人機(UAV)を使用したことと関係している、という可能性も考えられないではない。
ただ、11月1日時点でセンチネル衛星が撮影した不鮮明な画像では(
https://twitter.com/obretix/status/1454920098045730821?s=20)、エル・カミシュリに確認できるのはSu-34ないしSu-35Sらしき機体1機のみであり、『レポルチョール』が報じるほどの大規模な航空機展開が本当に行われたのかどうかは依然不明である。
『インディペンデント』が紹介している現地発とされる映像でも、Su-35Sと思しき機体が写っているには写っているが1機だけであった(
https://twitter.com/RALee85/status/1454910344065961985?s=20)。
いずれにしても、もう数日待てばエル・カミシュリの新しい衛星画像が入手可能になると思われるので、この件はあらためて取り上げることにしたい。
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