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第152号(2021年11月8日) 中露軍事協力との向き合い方、ベラルーシと新「共通軍事ドクトリン」

小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略
存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。 【目次】 ●今週のニュース 爆撃機と無人機の連携、ロシアとベラルーシの共通軍事ドクトリン ●インサイト 中露軍事協力に対する日本の向き合い方 ●NEW CLIPS 第二次ナゴルノ・カラバフ紛争におけるアゼルバイジャン空軍の戦い ●NEW BOOKS ウクライナ東部紛争で使用された武器の出自 ●編集後記 いよいよ例の言葉が登場する季節 =============================================== 【今週のニュース】爆撃機と無人機の連携、ロシアとベラルーシの共通軍事ドクトリン ・無人機を「眼」とするロシアの爆撃機  ロシア国防省系テレビ局「ズヴェズダ」のサイトに掲載された一本の記事が、ロシア軍事ウォッチャーから注目を集めている。ロシアで開発中の新型無人航空機(UAV)を紹介してく中で、ステルス戦闘無人機(UCAV)オホートニクがTu-95MS戦略爆撃機からの遠隔操縦を受けていたという記述がそれだ(https://zvezdaweekly.ru/news/20215171522-dr1QZ.html)。  Tu-95MSによるUAVの遠隔操縦という事実自体は2020年12月23日付タス通信が軍需産業筋の談話として既に報じていた(https://tass.ru/armiya-i-opk/10329081)。今回の記事が興味深いのは、このタス報道が国防省の系列メディアで確認された点と、それがオホートニクによるものであったことが判明した点にある。  この際、オホートニクが目標を発見するための偵察機としての役割や、敵の攻撃を逸らす囮としての役割を果たしたという記述(タスとズヴェズダに共通)も興味深い。  低速で図体の大きな爆撃機が目標上空まで侵入することはまず不可能であるから、攻撃にあたっては、遠距離から空中発射巡航ミサイル(ALCM)を発射するのが普通であるが、これは既に座標の判明している固定目標にしか使えない。しかし、爆撃機に先行してステルスUAVを侵入させて「眼」としての役割を果たさせることができれば、敵の移動式ミサイル発射機とか野戦軍の集結地といった移動しやすい目標をターゲットとすることも(理論上は)可能となろう。  一方、オホートニクが囮の役割を果たすとすればステルス性は邪魔になるはずであり、展開・収納の可能なリフレクター(レーダー反射器)のようなものを装備するのかもしれない。 ・ロシアとベラルーシの大統領が「共通軍事ドクトリン」に署名 『Belta』2021年11月4日 <https://www.belta.by/politics/view/belarus-i-rossija-utverdili-novuju-voennuju-doktrinu-sojuznogo-gosudarstva-467974-2021/>  11月4日、ロシアとベラルーシによって構成される「連合国家」の最高会議は、新たな共通軍事ドクトリンを承認した。  以前のメルマガ(https://note.com/cccp1917/n/n394445e7089b)でも紹介したように、両国は「同盟以上、連邦未満」という特別な関係にありながら、軍事面では微妙な距離が存在してきた。ベラルーシにしてみれば、ロシアとあまりに軍事面での関係を深めすぎれば前線国家化になってしまい、ロシアとNATOの軍事紛争に巻き込まれかねないためである。この点は「インサイト」のコーナーで見た中露の軍事協力関係とも通底するものがあろう。  このため、ベラルーシは憲法において自国を「中立国」とする条項を未だに維持しており、国内には大規模なロシア軍の戦闘部隊配備を許していない。  また、ベラルーシのルカシェンコ大統領は2018年、2001年に策定されたロシアとの「共通軍事ドクトリン」の改訂バージョンに署名しているが、この文書は連合国家最高会議によって承認されておらず、内容は非公表のままであった。おそらく、ベラルーシにとって受け入れ難いレベルでロシアとの軍事的統合(ロシア軍の常駐とか、戦時にロシアが作戦統制権を握るなど)が盛り込まれていたのではないかと思われる。  このようにしてみると、今回、新たな共通軍事ドクトリンが連合国家最高会議の承認を受けたというニュースは意味深である。2020年夏の反ルカシェンコ運動以降、ロシアへの依存を強めるベラルーシ側が、ついに新たな共通軍事ドクトリンの講評を飲まざるを得ないようなパワー・バランスの変化が生じていることをこの出来事は示唆するためである。  ただ、現時点で共通軍事ドクトリンの本文は公表されておらず、実際にベラルーシが何を飲まされたのか(あるいは何を飲まなかったのか)は明らかでない。  なお、ウクライナのメディアは、今回の共通軍事ドクトリンの承認はロシアとベラルーシの軍事的統合を強化するものであり、東側だけでなく北側からもウクライナに軍事的圧力を加えることにつながるとして警戒的な論調で報じている(https://ru.slovoidilo.ua/2021/11/05/statja/politika/rf-i-belarus-utverdili-obshhuyu-voennuyu-doktrinu-grozit-li-takoe-soglashenie-ukraine)。 【インサイト】中露軍事協力に対する日本の向き合い方 ・中露艦隊日本一周をどう捉えるか  今年10月18日、中露海軍の艦艇各5隻から成る計10隻の艦隊が津軽海峡を通航し、大きな注目を集めました。防衛省統合幕僚監部によると、中露海軍の艦艇が同時に津軽海峡を通航するのはこれが初の事例であったとされています。  艦隊はさらに太平側の日本沿岸を南下して20日には千葉県犬吠埼沖130kmの海域に到達。翌21日には、小笠原諸島の須美寿島と鳥島との間の海域を西へ進み、22日には高知県足摺岬沖を経て大隈海峡から東シナ海へと抜けました。また、この過程では中露の艦艇がヘリコプターを発着艦させたため、航空自衛隊が戦闘機の2度緊急発進を行っています。  素直な国民感情としては、中露の行動が非常に「気持ちの悪い」ものであったことはたしかです。中国の軍事力増強と強引な海洋進出が安全保障上の一大懸念として浮上しつつある中で、中露が海上において緊密な連携を示したことは、たしかに無視されるべきではないでしょう。  他方、今回の件に対して政府や世論が比較的冷静であったことを「平和ボケ」と嘆く声もあるが、中露艦隊は明白に国際法に違反する行動を取ったわけではありません。また、日本の同盟国である米国が中露の沿岸を含めた世界中の海域で航行の自由作戦(FONOP)を実施していることを考えても、むしろ強硬な対応は慎まれるべきであった筈です。  純軍事的に見ても、中露の脅威が著しく高まったことを示唆するものはありません。中露による今回の日本一周航海は、10月14-17日にかけて日本海で実施された中露合同海上演習「海洋連携2021」の終了後に行われたものですが、その内容は機雷掃海や対戦訓練とされており、2012年から実施されてきた一連の合同演習と比べて大きな変化はありませんでした。これは日本一周航海中の行動も同様で、中露それぞれに新鋭艦を参加させてはいたものの、驚くような新兵器や振る舞いが観察されていません。 ・動かなかったロシア原潜艦隊

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  • ロシアは今、世界情勢の中で台風の目になりつつあります。 ウクライナやシリアへの軍事介入、米国大統領選への干渉、英国での化学兵器攻撃など、ロシアのことをニュースで目にしない日はないと言ってもよくなりました。 そのロシアが何を考えているのか、世界をどうしようとしているのかについて、軍事と安全保障を切り口に考えていくメルマガです。 読者からの質問コーナーに加えて毎週のロシア軍事情勢ニュースも配信します。
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