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【Vol.403】冷泉彰彦のプリンストン通信『選挙後の日米政局

冷泉彰彦のプリンストン通信
「日本の政局、まだまだ続く困難」 総選挙が終わり自公政権が信任を受けた形となった日本の政局は遙かに安定 しているように見えます。ですが、そう楽観はできません。日本には日本で 別の困難があるからです。  1つは円安問題です。何度も言いますが、この間の円安は、多国籍企業が 海外で稼いだ利益を「大きく見せ」、同じく多国籍企業が海外で形成した株 価を「高く見せ」ただけです。勿論、円安にはデメリットがあり、日本の場 合は特に化石燃料の輸入コストが高くなる点ですが、これはこの間の原油安 で奇跡的に助かっていたわけです。  また円安の危険ということでは、日本の企業や技術が海外勢に買われると いう問題ですが、これも「既に買う価値のあるものがない」、つまりは「国 際基準での投資に対するリターンを期待できるモノは残っていなかった」と いうことで、何とかセーフで済んでいます。もっとも、2010年以前に気 がつかない間にたくさん買われていたのは事実ですが。  というわけで、特に痛みを感じることなく円安をダラダラ続けてきたわけ ですが、ここへ来て、かなり厳しい状況になってきました。まず、日本とし てはどうしても一定程度の化石燃料を輸入しなくてはならないのですが、こ れが高騰してきたわけです。ガソリン、灯油の価格も上昇し、一般消費者だ けでなく例えば中小企業や農家などにもダイレクトなインパクトが行ってい ます。  更に、木材、大豆、小麦などのコモデティ、そして再生可能エネルギーの ための太陽パネルなども、ここまでの円安になると厳しさが出ています。一 番問題なのは、デフレ経済のために人件費が抑制された結果、ただでさえ安 くなっている日本の賃金水準が、ドルに倒すと極小になっている問題です。 こうなると、一流の人材を国際労働市場から調達するのは難しくなります。 また、日本から要員を海外の研究施設や工場などに駐在ベースで派遣するの もかなり難しくなります。  人の移動ということでは、海外への留学も非常に困難になってきます。反 対に、円安は、訪日観光客の受け入れビジネスには追い風ですが、こちらは 当分の間は「ゼロ」ですから折角のメリットが生かせていません。  2点目は、エネルギー問題です。グラスゴーのCOP26で、岸田首相は 相変わらず「石炭火力の輸出をやめない」ということから、「化石賞」とい う悪名高い賞を受けてしまいました。このニュース、かなり恥ずかしいし、 非常に問題だと思うのですが、日本のメディアはほとんどスルーの構えです。  この「化石賞」について積極的に取り上げていたのは、共産党の「しんぶ ん赤旗」だけでした。この党は「環境対策の結果、経済が死んでも全員が貧 しく平等になってバンザイ」という極端な政党ですから、それ以外のグルー プは、この「化石賞」をスルーしたいということだと思います。  どうしてスルーしたいのでしょうか。日本というのは、世界における「評 判」をとても気にする傾向があります。1980年代に「集中豪雨的輸出」 だと怒られると、「良品を廉価で売って何が悪い」という正論を捨てて、 「お詫び」に必死となり、ついに自国の経済を自爆させてしまったくらいだ からです。  ですが、この「化石賞」については、誰も恥ずかしいと思わないわけです。 というのは、経済を回しつつ、排出ガスを減らすには「もう少しだけ安全な 原発を再稼働」しなくてはならないのですが、自民党も野党も、国民の「首 に鈴をつけに行く」のを嫌がっているし、世論もこの問題を「直視するのを 避けて」いるからです。(続く)

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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