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週刊 Life is Beautiful 2021年11月16日号:日本政府が「脱石炭」に賛同出来ない理由

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん 日本政府が「脱石炭」に賛同出来ない理由 イギリスで開かれた気候変動対策の国連の会議「COP26」で、温室効果ガスの排出削減対策がとられていない石炭火力発電所の新規建設中止などを盛り込んだ声明に、ヨーロッパ各国など40か国あまりが賛同しましたが、日本政府は賛同しませんでした(COP26「脱石炭」の声明に40か国余が賛同 日米中は含まれず)。 その理由は、日本の「周回遅れの国策」にあります。 平成27年(2015年)に資源エネルギー庁により書かれた「火力発電の高効率化に向けた 発電効率の基準等について」によれば、日本政府は2030年度の電源構成を「石炭26%程度」とする目標を立てています。 日本政府は国策として、USC(Ultra Super Critical:超超臨界圧)と呼ばれる効率の良い石炭火力に力を入れており、二酸化炭素の排出量の多い旧来型の石炭火力を、排出量の少ない新設により置き換えることにより、二酸化炭素の総排出量を減らす、という計画を進めて来たのです。 しかし、世界の国々の多くは、一足飛びに「石炭火力の廃止」と「再生可能エネルギーへのシフト」を急速に進めようとしており、それが今回の声明に現れているのです。 日本政府の計画は、それと比べると周回遅れですが、簡単に政策を変更出来ない日本政府が「石炭火力発電所の新規建設中止」という声明に賛同出来ないのは当然なのです。 しかし、もっと大きな問題は、日本政府が、アジアの国々に対して、日本の大型高効率石炭火力発電所を購入することを条件として、大量の円借款をJICA(国際協力機構)やJBIC(国際協力銀行)を通して行っている点です。 バングラデッシュの「マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業」が典型的な例ですが、JICAから415億円を貸し出し、そのお金で、日本の技術を使って、600メガワットの高効率の超々臨界圧石炭火力発電所2基の建設を行わせたのです。 この石炭火力輸出の問題点に関しては、気候ネットワーク、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)などが共同で執筆した「石炭はクリーンではない」に厳しく批判されていますが、JBICだけで「2003年から2015年の間、新規の石 炭火力発電設備に84.9億米ドル(約9,600億円)もの融資や保証を 行っており、その設備容量の累計は23,933メガワット(MW)にも及んで」いる上に、「実際には、JBICが支援する石炭火力発電設備の 効率は世界平均と比べても低く、最良の大気汚染対策 技術を設置しているとは言えない」そうです。 日本政府による石炭火力の輸出は、実質的に税金を使った日本企業の支援であり、それをストップすることは、福島第一での過酷事故以来、原子力発電所の輸出が難しくなっている日本企業にとって、大きなダメージになるのです。 特に超々臨界圧石炭火力発電に必須な技術に関しては、国策企業でもある三菱・日立・東芝が重要な役割を果たしており、日本政府としては、彼らに対する支援を辞めることはとても難しいのです。 特にガスタービンのシェアが世界一位である三菱重工は、エネルギー関連の売り上げが41%(2020年度で1兆5460億円)もあり、政府の支援を失うことは死活問題です。三菱重工は、2021年株主向けの事業戦略説明資料に、SDGsへの取り込みとして、二酸化炭素の回収技術、水素発電、アンモニア発電などに力を入れると宣言していますが、それらの試みが実際の売り上げに貢献するのはまだ先のことであり、急激な「脱石炭」の流れは、なんとか阻止したいと考えて当然です。 地球温暖化対策、およびアジア諸国の支援を本気で考えるのであれば、本当に必要なのはODAを活用した再生可能エネルギー事業への投資ですが、国策に基づいて「原子力発電」と「超々臨界圧石炭火力発電」に莫大な投資をし、再生可能エネルギー関連の技術(特に太陽光と風力)では中国や欧米に大きな遅れをとってしまった日本企業が、いまさらその市場で活躍することはとても難しいのが現状です。 ある意味、急激な電気自動車の台頭で、国策に乗じて水素自動車に力を入れていた日本の自動車業界が周回遅れになってしまった構図と似ています。「ビジョンのない政治家」「一度始めたことを辞めることが出来ない霞ヶ関の官僚」「冒険が出来ないサラリーマン経営者」の組み合わせ(つまり、リーダーシップの欠如)が、大きく世界が激しく変わりつつある中で、すばやい方向転換が出来ないのです。

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