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福島良一氏:大谷翔平という奇跡を可能にしたもの[マル激!メールマガジン 2021年11月24日号]

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マル激!メールマガジン 2021年11月24日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1076回) 大谷翔平という奇跡を可能にしたもの ゲスト:福島良一氏(スポーツジャーナリスト、メジャーリーグ評論家) ──────────────────────────────────────  世界の野球界の最高峰に君臨するメジャーリーグでMVPを取れるほどの日本人選手が生まれた。日本人としては20年前にイチローがメジャー挑戦1年目でMVPを受賞しているが、大谷の場合は、これまで誰も成し遂げることができなかった2-way(二刀流)選手としての受賞であり、メジャー屈指のホームランバッターにして剛速球投手としての受賞であるところが、まさに画期的なのだ。  とかく人材を輩出できないと言われる日本からなぜこれだけの大選手が生まれたのかを、メジャーリーグ博士の異名を取るスポーツジャーナリストの福島良一氏と考えた。  とにかく存在そのものがあまりにも奇跡的で、野球に詳しくない人にこれをどう説明すればいいかに当惑するほどだ。193センチの長身に長い腕と長い脚、柔軟な関節などの類い希なる恵まれた体格から生まれる160キロを超える剛速球と、直球(4シーム)と同じ軌道を描きながらホームベース直前で大きく沈み込む落差の大きなスプリット(SFF)。 打っては、メジャー屈指のスイングスピードが生む打球の初速は185キロを越えメジャーでは3本指に入る。大谷の今シーズンの46本塁打はゴジラ松井秀喜が残した日本人のメジャー最多本塁打記録の31本を大きく上回り、最後までホームラン王争いを演じた。走るスピードもメジャー屈指で、その最高速は2019年にNFLでMVPを受賞したボルチモア・レイブンズのスーパースターQB(クオーターバック)のラマー・ジャクソンに匹敵する。 日本人選手が逆立ちしても勝てなかったパワーとスピードで、並み居るメジャーリーガーを凌ぐほどの優れた選手が日本から出たというだけでも、これまでの常識では考えられないことだ。  とは言え、身体能力だけなら、これまでも優れた選手は大勢いた。しかし、これまで大谷のようなピッチャーとバッターでいずれもメジャートップクラスの成績を残せるような選手は、日本はおろかメジャーリーグでも出てこなかった。なぜ突然大谷が、ベーブルース以来と言われるその壁を破ることができたのか。  福島氏は、高校や大学まではピッチャーで4番打者という選手はいくらでもいるが、これまではプロに入る際に必ずどちらかに専念することを求められるのが当たり前だった理由として、投手と打者という明らかに異なる能力が求められる2つの分野で同時に、プロの厳しい世界で通用するような能力を身につけることは、どんなに運動能力が高くても不可能なことだと考えられていたからだと言う。大谷はその常識を根底から覆したのだ。  実際、大谷の二刀流については日本のみならず、野球の本場アメリカでも懐疑的な見方をする人が多かった。しかし、なぜか大谷は自信に満ちた表情で二刀流を押し通し、彼をドラフトした日ハムも、ポスティングで彼を獲得したエンゼルスも二刀流を認めた。父から指導を受けた少年野球時代を皮切りに、花巻東高校の佐々木洋、日ハムの栗山英樹、エンゼルスのマイク・ソーシア、ジョン・マドンと、何れも名将として知られる名監督の下で、指導者にも恵まれた。 持って生まれた身体能力と強い心、そして誰もが羨むような優れた指導者という、普通ではあり得ないような突出した好条件が奇跡的に重なった結果、今回の大谷の二刀流MVPが実現したのだった。  しかし、何と言っても大谷翔平を語る時、その内面的な誠実さや向上心に触れないわけにはいかないだろう。過去の本人や関係者らのインタビューや先週の日本記者クラブでの記者会見を見ても、二刀流の金字塔と言っても過言ではないほどの偉大な記録を打ち立てながら、大谷自身はMVPだのその他の表彰だのにはまったく興味がないという体で、既に心は来シーズンに向けたトレーニングの方に向けられていることがうかがえた。  今週は大谷選手のMVP受賞を受けて、メジャーリーグに詳しい福島良一氏とともに、何が大谷翔平という奇跡を可能にしたのかについて、メジャーリーグの大ファンでメジャーリーグに関する本の翻訳も手がけているジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・大谷翔平という奇跡はなぜ生まれたのか ・アメリカでも選手に迫られてきた「投手か、打者か」の選択 ・メジャーリーグのルールすら変えていく大谷翔平 ・大谷の物語は教育・若者育成の教材になり得る +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■大谷翔平という奇跡はなぜ生まれたのか 神保: アメリカ時間で11月18日、画期的かつ非常におめでたい出来事がありました。他でもない、メジャーリーグ・エンゼルス大谷翔平のMVP受賞です。しかも、全米野球記者協会で代表格の30人全員が万票で、アメリカンリーグの1位だと。  今回は、あまり野球に興味がない宮台さんにすごいと思ってもらうのが、ひとつの正解です。一方で真剣に考えていただきたいと思うのが、まったく人材を輩出できていない日本が、マイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソンレベルの選手を輩出できたということ。僕から見ると、使いすぎやフォームの修正など、選手を潰すような仕組みがあるなかで、これはある意味で奇跡なんです。 人材をダメにする日本のシステムに足を引っ張られず、メジャーに行って、向こうで花開いたというのは、本当に奇跡に近い。逆に考えると、日本もやり方次第ではこういう人材を作れるじゃないかと。 宮台: 後追いですが、その奇跡を可能にしたものを知りたいですね。他の分野にも応用できるかもしれません。興味津々です。 神保: そういうことで、メジャーリーグ評論家の福島良一さんをゲストにお招きしました。いまはスポーツチャンネルがたくさんありますが、例えば野茂英雄の時代はNHKのBSでしか見られなくて、福島さんの解説をよく見た記憶があります。 福島: それはありがとうございます。 神保: さっそくですが、メジャーリーグを長く見ている福島さんは、大谷のMVP受賞をどう受け止めていますか。 福島: 日本人選手としては、2001年にメジャーリーグ史上初の日本人野手としてシアトルマリナーズに入団したイチロー選手が、1年目でいきなり新人王とMVPを同時受賞して話題になりました。そのイチローさん以来20年ぶり2人目の快挙ですが、特に今回は満票でのMVPということで、これは日本人選手史上初めてです。 MVPというのは、単に個人の成績というより、チームの勝利にいかに貢献したか、ということが最大の評価ポイントとなり、その点、エンゼルスは地区の5球団中4位で、大谷選手は残念ながら、少なくとも優勝やプレーオフ進出には貢献できなかった。ただ、最近はそれとは別にチーム勝利の貢献度を表す指標があり、それがメジャーリーグ全体でダントツの数字ということで、満票での受賞につながったのだと思います。

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