松尾スズキの、のっぴきならない日常
/ 2021年12月3日発行 /Vol.493(2/2)
「人生に座右の銘はいらない」
読者からの相談や質問に松尾スズキが独自の視点でお答えします!
Q.小学校低学年のときに父親の暴力が原因で両親が離婚しました。中学生のときに、大学生だった姉が家出しました(生きてはいるようです)。という家庭で育ったせいか、幸せそうな人を見るのが辛いし、不機嫌になってしまったりします。そんな性格だからか、友達もいません。映画や演劇を見て現実逃避するのだけが趣味です。松尾さんの舞台も大好きです。ただ、残りの人生を、ずっとこのまま過ごすかと思うと少し寂しいし怖いです。こんな性格を変える方法はあるものでしょうか?(33歳、男性、求職中)
A.さっそく、性格というものが治るものなのか自分に問うてみました。わたしは、一言で言えば、とてつもなく臆病です。多分、父から受け継いだ性格です。これがいま、治っているのか? 治っていないと思います。たとえば、妻の車に乗って道を走っているとき、のうのうと目の前に走り出てくるウーバーの自転車の人などを見ると、よく後ろも見ずに道路の真ん中に剥き身で走り出ることができるな、と動揺します。なにしろ、こちらは鉄の塊の中、彼らは肉体丸出しです。自分は、そういうとき振り返らないで自転車をこぐことができません。だからこそ、振り返りもしない人たちの物語に思い馳せ、作品を書けるのかもしれません。不安は創作の一原動力です。性格を変えることより、その性格を利用して、なにかしらできないかと考えるほうが現実的です。現実逃避できるツールが健康を害さないものであるというのは、強みだと思います。
Q.インスタをやっていると、加工していても、べつにカッコ良くも可愛くもない素人が、自撮りをアップしているのが不思議です。それも、内輪の友達に向けた面白系の写真とかならわかるのですが、イケてる風のカッコつけたような写真だったり、いいオンナ風だったりします。見なければいいのでしょうが、友達との会話についていくためにもチェックしておいたほうがよかったりします。いちいちイラっとしてる僕は心が狭いのでしょうか?(21歳、男性、学生)
A.インスタをやってないと続けていけない友人関係ってものがあるのですね。恐ろしい世界です。わたしと一緒に、なるべくスマホに触らないでいられる人生を目指しませんか。現在、なんとかがんばっていますが、がんばれば、がんばるほどスマホに触りたくなります。中毒だな、と虚しくなります。虚しいのです。スマホの中にある世界は、すべて虚しいのです。しょせん電気メンコです。そうと知っていれば、いちいちイライラしないで済むと思います。みな、虚無を弄んでいるだけで、本気のつもりで相手をしていてもしょうがないわけです。
Q.よく「好きなことを仕事にする」とか「やりたくないことはやらない」などと謡うビジネス書や自己啓発書を見かけるのですが、本当でしょうか? 嫌いだと思っていたことの先に好きなことがある可能性もあるし、そもそも「やりたくないことはやらない」って、松尾さんレベルの人ならわかりますけど、普通の人が言ったらただのワガママな気もするのですが、どうなんでしょうか。(38歳、男性)
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