気胸、ご存じですか？！

ドクター畑地の診察室119.2021.12.12. 現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。 世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います！おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者（肺癌、喘息、COPD、肺炎など）を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説＆ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信！ https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/ 三重県出身　自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる 現在、松阪市民病院統括副院長兼呼吸器センター長 診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け！radioを聴いてらんらんらん（lung lung lung）」という毎週月曜日放送の番組を担当 https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 気胸、ご存じですか？！ “気胸”聞いたことがある人は多いと思います。簡単に言うと、肺に穴が開く病気です。肺は風船のような臓器なので、穴が開くとそこから空気が漏れて萎んでしまいます。風船なので、真ん中に穴が空いても全く肺は縮みません。肺の端っこ、胸膜に接する部分に穴が開くと肺が縮んでしまいます。 この病気が起こってくるのは、背の高い若い男性、痩せ型の人です。肩が痛くて発症することもあります。もともと元気な人だと、かなり肺が縮んでも呼吸困難をきたす事は少ないと思います。しかし、両方の肺に気胸が起こったり、あまりにも肺が縮んでペシャンコになると右と左の圧の格差がかなり大きくなり、胸全体が動揺して緊張性気胸という状況になることもあります。そうなると命に関わる状況になり、緊急に処置が必要となります。 この気胸、治療方法は一般的に縮んだ肺に管を入れ、圧をかけて空気を抜くことです。そうすると肺は膨らむのですが、肝心の穴が開いた部分が塞がらないといつまでも空気が抜けてきて管が抜けないことになります。通常の場合だと、2、 3日引っ張れば自然と穴は塞がり、管が抜けるわけです。しかし皆さん、血が固まってできる“瘡蓋”を考えてください。怪我をした部分に瘡蓋ができ、しばらくすると瘡蓋が脱落することがあります。その際、うまく傷が治っていれば元通りになりますが、十分に治ってない場合だと、また傷口が広がることがあります。 気胸も同様です。修復の過程で、うまく穴の開いた部分が再生していれば気胸が再発する事は無いのですが、うまく再生していない場合は穴がすぐに広がってしまい、気胸が再発しやすい理由となります。再発を繰り返す場合は、手術的にその穴を見つけ、そこの部分を切除することが必要となります。手術中に胸腔内に水を入れると、空気が漏れているのが見つかります。そこの部分を切除し修復するわけです。自転車のパンクの修理と一緒ですね。 しかし、この気胸が元々肺に大きな穴が空いてくるような病気、例えばCOPDの患者さんに起こったらどうなるでしょう。はじめから大きな穴が多数開いているので、管を入れて引っ張っても大きな穴はなかなか修復しません。手術をしてその穴の部位を切除しても、他にも穴が開きそうな部分がいっぱいあるので、すぐに再発してしまうことになりかねません。手術可能な患者さんはまだマシなのですが、全身麻酔をかけられない、呼吸機能が悪い人に起こったら大変です。一見若い人には全く命に関わることがない気胸でも、重症のCOPDの患者さんに起これば、それが命取りになる事があります。