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週刊 Life is Beautiful 2021年1月4日号:テクノロジー業界の定点観測

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん テクノロジー業界の定点観測 このメルマガを書き始めたのは2011年なので、10年以上執筆していることになります。その間に書籍も何冊か執筆しましたが、やはり「最新の事象」について書くのは、メルマガの方が圧倒的に優れていると思います。 例えば Tesla について書くことを考えると、書籍であれば電気自動車の歴史から始め、Elon Musk の人物像、Tesla と Elon Musk の出会い、Elon Musk がCEOになった経緯などを描いた上で、Tesla が何をしてきたか、そして Tesla が自動車業界全体にどんなインパクトを与えて来たかなどを網羅的に書く必要があります。 それはそれで価値はあるとは思いますが、その手の書物を私より上手に書ける人はたくさんおり、それが私がやるべき仕事とは思えないのです。 しかし、実際に Tesla 車に乗り、Tesla 株を持ち、自動車業界向けのソフトウェアを提供する会社を経営していた経験があるソフトウェア・エンジニアという私のユニークな視点から、Teslaや自動車業界に関わるさまざまな事象をピックアップして解説するのであれば、新聞・雑誌の記者よりははるかに中身の濃い記事を書くことが可能です。 地震予知のための定点観測と同じく、この手の解説記事は時系列に沿って書く・読む・議論することに意味があり、この「メルマガ」という形が最適なのです。 そこで2022年も、この「テクノロジー業界の定点観測」を続けて行く予定です。その中でも、私が特に注目しているのは、以下の3つの分野です。電気自動車・自動運転AR、VR、メタバース暗号通貨、NFT、Web3 新年号ということもあるので、それぞれの分野に関しての現状の把握と、今後の注目すべき点に関して、簡単にまとめてみたいと思います。 電気自動車・自動運転 この分野の台風の目は、疑うことなくTeslaです。EVシフト(電気自動車によるガソリン・ディーゼル車の置き換え)は、Teslaがなくても起こっていただろうとは思いますが、Teslaの存在が3年〜5年早めたと言って良いでしょう。 Tesla以前は、電気自動車は、航続距離が短くスピードも出ないわりに高額で、あまり実用的な自動車ではありませんでした。Teslaは、その常識を Roadster、Model S、Model 3 で根本的に覆し、EVシフトを一気に加速したのです。 Teslaが他社と違うのは、電気自動車に必須なリチウムイオン電池の製造ラインに莫大な投資をしたことで、これにより電池の価格を大幅に下げて、「燃料代やメンテナンスコストを考慮すれば、ガソリン・ディーゼル車よりも安い」電気自動車を作ることを可能にしました。 自動車の製造プロセスに関しても、ロボットの導入とギガプレスと呼ばれる巨大なプレスマシンの活用と、積極的な設備投資により、年率50%で製造能力を増やすという、これまでの自動車業界の常識を覆す勢いで成長しています。 既存の自動車メーカーは、ようやく「EVシフト」が彼らの存在そのものを脅かすものになったことに気がつき、大慌てでEVシフトを進めようとしていますが、過去のしがらみもあり、Tesla に追いつくスピードでEVシフトをすることは簡単には出来ないのが現状です。 その中でも健闘しているのは、ポルシェやフォルクスワーゲンなどのヨーロッパ勢です。ディーゼル車にまつわるスキャンダルで窮地に追い込まれていたことと、ヨーロッパ各国が地球温暖化対策としてEV化を促す政策を打ち出したことが、良い進化圧を業界に与えた結果です。 米国の自動車メーカー(Ford、GM)は表向きではEVシフトを急速に進めると宣言をしてはいますが、現時点の稼ぎ頭が、ガソリンを大量に消費するピックアップトラックやSUVであるため、簡単には方向を変えられないのが現状です。自動車の販売を担当するディーラーたちが、メンテナンスで稼ぐことが出来ない電気自動車を売りたがらないため、それも向かい風となっています。GMのCEOは、2030年までにEVの世界でNo.1になると宣言していますが、どう見ても無理だと私は思います。 中国にはBYD、NIO、Xpeng など、数多くの電気自動車メーカーが誕生しており、まずは中国市場で Tesla に追いつけ追い越せという戦いを繰り広げています。その激しい戦いの中で勝ち抜いた企業が米国やヨーロッパ市場で大きな存在感を持つようになるのは時間の問題だと私は見ています。 日本のメーカーの中では、当初は日産がEV化で先頭を走っていましたが、EV化を強く推し進めていたゴーン氏が日本の経営陣により追い出されてからは、ビジョンを失ったように見えます。 トヨタ自動車は、ハイブリッドで世界の先頭を走っていたこと、そして、その次には水素の時代が来ると見て莫大な投資をしていたことが仇になって、EV化で大きな遅れをとってしまいました。ここからどう挽回するかが見ものですが、とても厳しい戦いになると思います。 ホンダは小さくて小回りの効く会社なので、ここからのスピードは期待しても良いと思いますが、資金面で十分な投資をする余力があるのかが心配です。 米国には、Tesla以外にも、Lucid Motors、Rivian などのEVベンチャーが誕生していますが、彼らがどの程度のシェアを確保出来るかは、現時点ではなんとも言えません。一番問題になるのは、生産設備の充実で、そこに十分な投資が出来るかどうかが勝負の鍵を握るため、資金力の弱いベンチャー企業は、厳しい戦いを強いられます。 自動車業界には、EV化に加えて、自動運転の波が押し寄せています。現時点で最も大きな注目を集めているのは、Waymo(Alphabet 傘下)とTeslaですが、Cruise (GM傘下)、MobileEye(Intel 傘下)なども着実に駒を進めており、しばらくは混沌とした時代が続くと見て良いと思います。 自動運転には、運転手の補助をする高度運転支援(レベル2、3)と、人間の運転手が不要な完全自動運転(レベル4、5)とがあります。高度運転支援に関しては Tesla がリーダーで、これを Cruise などが追いかける形で進歩しています。 完全自動運転に関しては、Waymoが先頭を走って実証実験を行っていますが、「限定的な地域でのロボタクシー・サービス」という形の方が技術的にも法的にも現実的で、まずはそんな形で局所的に複数の市場がバラバラに立ち上がると見て間違いありません。 Elon Musk は Tesla の高度運転支援が近いうちに完全自動運転をも可能にすると楽観視しているようですが、私はそうは思いません。Tesla がロボタクシー化するのには、少なくとも数年はかかるでしょう。 EV化と自動運転化は、自動車市場向けの半導体需要を加速します。現時点で、自動車向けの半導体に強い企業は、ルネサス、NXP、Infineon などですが、自動運転向けの高性能な半導体は、彼らが得意とするところではなく、新規参入のNvidiaやMobileEye(Intel の子会社)が大きなシェアを持つ可能性が高いと思います。

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