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神野直彦氏:真っ当な「新しい資本主義」のすすめ[マル激!メールマガジン 2022年1月12日号]

マル激!メールマガジン
マル激!メールマガジン 2022年1月12日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1083回) 真っ当な「新しい資本主義」のすすめ ゲスト:神野直彦氏(東京大学名誉教授・社会事業大学学長) ──────────────────────────────────────  「新しい資本主義」が、グローバルよりローカルを、単純な市場原理よりも社会の保全を優先する、「分かち合い」の方向へ向かうかどうかが問われている。  岸田政権の旗印が「新しい資本主義」だという。行き過ぎた資本主義が格差を生み、人類の生存にも関わる気候変動問題にもブレーキがかからないなど、数々の問題を生じさせていることは確かだ。何らかの軌道修正が必要なことは間違いないだろう。キャッチフレーズとしては悪くないのかもしれない。  しかし、岸田政権の新しい資本主義の中身を具体的に見てみると、キャッチフレーズこそよく練られているものの、結局のところ成長戦略としては何ら目新しいものは見当たらない。かと思えば、分配戦略としては「賃上げ機運の醸成」「男女間賃金格差の解消」など、新鮮さもなければ具体性もないメニューが並ぶばかりで、これのどこが「新しい資本主義」なのか、皆目見当が付かない内容だ。岸田政権は「古い資本主義」のどこに問題があると考え、それをいかにして解消しようというのか。その根底をなす考え方が見えないのだ。  「新しい資本主義」の具体的な内容は「新しい資本主義実現会議」なる会議で議論するということだが、ここまで3回開催された同会議は、何をもって新しい資本主義とするのかをめぐる堂々巡りの議論で迷走するばかりだったと聞く。岸田政権も安倍政権と同様、官邸官僚の多くを占める経産官僚が得意とするキャッチフレーズ内閣で終わってしまうのではないかという懸念が、早くも頭をもたげ始めている。  しかし、せっかく日本の総理大臣が「新しい資本主義」を掲げたのであれば、ぜひともこの際、ここまでの資本主義の問題点を真剣に議論し、本当の意味での新しい資本主義を志向してみてはどうだろうか。少なくともその方向へ一歩を踏み出さない手はない。  経済学者として一貫して分かち合いの経済政策の必要性を訴え、その方向への経済政策の転換を提唱してきた東京大学名誉教授の神野直彦氏は、岸田政権の「新しい資本主義」には何ら新しい要素は見いだせないとしたうえで、現在の資本主義が置かれている状態に以下のような認識を示す。  それは、20世紀末に資本主義vs社会主義の戦いにおいてソビエト型社会主義が崩壊することで資本主義が一時的に勝利を収めたところまでを第1幕とすると、第2幕では社会主義に勝った西側資本主義を支えた戦後の福祉国家モデルも程なく終焉し、そして第3幕で小さな政府を主張する新自由主義的なアングロ・アメリカン(英米型)モデルの資本主義と、EUの社会統合モデルが登場したたが、その両者がリーマンショック後に共倒れとなり、現在世界は第4幕が開かないまま混沌とした状態にあるというものだ。  世界が新しい資本主義の形を模索する中で、大上段から「新しい資本主義」を掲げる以上、岸田政権はそうした世界的な潮流の中で日本がどのような資本主義を提案しようとしているのかが問われると神野氏は語る。  さらに神野氏は人間社会は過剰な豊かさと貧しさとによって壊滅的な打撃を受け、今日の世界は歴史の方向性に対する喪失感を感じている危機的な局面にあるとした上で、20世紀初期の大恐慌がケインズを登場させたように、今回の危機も新しい経済思想を要請していると指摘する。  第4幕を模索しながら混沌とする世界にあって、SNSやメタバースを通じて権威主義やポピュリズムが人々の寂しさに付け入る隙を虎視眈々と狙う今、時代が要請している新しい経済思想とはどんなものか。日本が「新しい資本主義」に取り入れなければならない要素とは何なのか。一貫して新自由主義を批判し、分かち合いの経済を提唱してきた神野氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・思想とビジョンが感じられない「新しい資本主義」 ・共倒れしたアングロアメリカンモデルとヨーロッパモデル ・行き着く先は国民国家時代の終焉か ・実存を忘れさせるメタバースに対抗するために +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■思想とビジョンが感じられない「新しい資本主義」 神保: 一年の最初の放送ということもあり、今回は細かい話より、大きなテーマでお送りしたいと思います。「新しい資本主義」というのは一応、岸田政権の多分に電通的なキャッチフレーズです。 宮台: 僕も「新しい資本主義」などという本を書きたいですよ。思い切ったタイトルで、岸田が資本主義をどれだけわかっているのか、ということが疑問になります。資本主義の定義とは、と聞かれて彼は話せるのか。 神保: 逆にいうと、わかっている人はとてもではないが怖くてつけられないようなネーミングです。ただ、資本主義、民主主義がさまざまな意味で曲がり角に来ているなかで、コロナの問題が生じ、この1〜2年は四の五の言っている場合ではなかった、ということもある。だからここで、ポストコロナに向けたひとつの大きなテーマとして、「新しい資本主義」というものを真剣に考えてみたいと思います。  ゲストをご紹介いたします。この番組には3度目のご登場となります、東京大学名誉教授の神野直彦さんです。さて、「岸田さんのいう新しい資本主義」と、「本当の新しい資本主義」と分けたとき、後者に重きを置きたいと思いますが、まずは前者から、財政学がご専門の経済学者として、このようなキャッチコピーを謳う政権が出てきたことをどう思われましたか。

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