抗酸菌感染

ドクター畑地の診察室123.2022.1.16. 現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。 世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います！おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者（肺癌、喘息、COPD、肺炎など）を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説＆ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信！ https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/ 三重県出身　自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる 現在、松阪市民病院統括副院長兼呼吸器センター長 診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け！radioを聴いてらんらんらん（lung lung lung）」という毎週月曜日放送の番組を担当 https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 抗酸菌感染 “結核”という病気を知っている人は多いと思います。戦前の日本の死因1位を占め、正岡子規もこの病気で亡くなりました。進行するにつれ喀血を繰り返し、体力が消耗して死に至る病気でした。特効薬がなかった戦前には、療養しながら美味しいものを食べ、体力をつけることだけが唯一の治療法であり、多くのサナトリウムが空気の良い地に造られました。戦前書かれた様々な小説の舞台にもなっています。 終戦後に“ストレプトマイシン”という特効薬が出現し、高額な薬代金を支払い治療された患者さんも大勢いたと思います。結論だけ言うと、注射してしばらくの間、結核は劇的に改善します。しかし、何週間か経過すると、また結核が悪化してきます。ストレプトマイシンは結核には効果があるものの、それ単独では治癒させる力はなく、体の中でストレプトマイシン耐性結核菌が増えてきてしまい、再度悪化してきます。 結核菌の中には、もともと存在する抗菌薬について数万に1個位の割合で耐性を持っている結核菌が存在します。ストレプトマイシンで治療するとその数万個に1個の結核菌が残ってしまい、最終的にはその耐性菌が増殖してきます。そのため、結核治療は何種類かの抗菌薬を併用します。人体に存在する結核菌の数以上に耐性菌の存在する割合を少なくすれば、結核は死滅させることができるわけです。2種類の薬剤を使えば少なくとも数万×数万個の結核菌が存在しない限り耐性菌は理論上出現してこないはずです。そして3種類の薬剤を使用すれば数万× 数万×数万個結核菌が存在しないと耐性菌が出現してこなくなります。 現在、結核菌に対して最初の2ヶ月は4剤、後の４ヶ月は2剤ないし3剤で半年間治療することが一般的で、健常な成人の場合は半年間の治療でほとんど治癒します。しかし、高齢で体力が衰えた患者さんや糖尿病などの合併症がある患者さんの場合、それだけでは十分でなく結核が命に関わる病気となることもあります。 抗菌薬が効く前提は体が丈夫なことなのです。体が丈夫でない状況ではいくら抗菌薬を投与しても、最終的に細菌と戦うのは自分の体なので、治癒しにくい、あるいは治癒できないのです。 先ほども述べたように、通常の治療ができた患者さんは半年間の治療でほぼ治癒します。多くの患者さんの場合、結核との戦いに勝利を得ることができます。