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第160号(2022年1月17日) 西側との対話決裂 考えられるオプション ほか

小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略
存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。 【目次】 ●インサイト 西側との対話決裂 考えられるオプション ●今週のニュース 50年前の爆撃機を再生産、ツィルコン極超音速ミサイル実戦配備へ ほか ●NEW CLIPS カザフスタンから撤退してきたロシア軍平和維持部隊 ●NEW (とは限らない)BOOKS バラバノフ「平和強制-2」 ●編集後記 「大国」の要件 =============================================== 【インサイト】西側との対話決裂 考えられるオプション  あけましておめでとうございます、というにはもう年が明けてからだいぶ時間が経ってしまいました。  とはいえ、まだ新年に入ってから2週間少しだというのに、今年ももう随分と盛り沢山な感じです。  カザフスタンにおける突如の騒擾発生とこれに対する集団安全保障条約機構(CSTO)による平和維持部隊の派遣、そしてこの間に起きたトカエフ大統領によるナザルバエフ元大統領排除の動き(と思われるもの)はその第一に数えられるでしょう。第二に、北朝鮮が極超音速ミサイルと自称する新型ミサイルを立て続けに発射し、どうやら実際にある程度の軌道変更能力を持っているらしいことがわかってきました。  これらの出来事については次回にでも詳しく扱いたいと思いますが、今回は第三の出来事、すなわちウクライナをめぐるロシアと西側の関係性について引き続き考えてみたいと思います。 ・失敗に終わった対話  先週、ロシアと西側諸国の間では一連の対話が行われました。  最初に行われたのは、1月10日の米露外務次官級協議です。米国のシャーマン国務副長官とロシアのリャプコフ外務次官を筆頭とする両国外交団はスイスのジュネーヴで会合し、昨年12月にロシア外務省が提示した新たな欧州安全保障枠組みに関する条約案について8時間にわたる話し合いを持ったとされています。  ロシア外務省のサイトに掲載された条約案(https://mid.ru/ru/foreign_policy/rso/nato/1790818/?lang=ru)を見ると、 ・米国はNATOを旧ソ連諸国に拡大させようとしないこと(第4条) ・米露は既に配備されたものを除いて同盟国に新たな部隊配備を行わないこと(第5条) ・互いの領土に届く範囲に短・中距離攻撃兵器を配備しないこと(第6条) ・国外に核兵器を配備しないこと(第7条)  などが謳われており、一種の不可侵条約を目指したものであることがわかります。  しかし、協議後、シャーマン副長官はNATO不拡大案は受け入れられないとして上で、ロシアがウクライナへの軍事圧力を緩和しないことには「建設的で生産的な外交を行うことは非常に困難だと伝えた」ことを明らかにしました(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220111/k10013423931000.html)。  続く12日には、ロシアがNATOに対して提案した類似の条約案(本メルマガ第158号を参照 <https://note.com/cccp1917/n/n140ae635443e>)についての協議が行われましが、その結果はやはり大同小異でした。  NATO側はミサイル配備規制については話し合う余地ありとしたものの、NATO不拡大要求に関してはやはり受け入れられないとの姿勢を示したためです。この方針は協議前の7日に行われたNATO外相会合で予め確認されていたものであり、驚くべきことではないとしても、やはり協議が決裂したことには変わりはありません。  協議後、ストルテンベルク事務総長は、「ウクライナのNATO加盟拒否を認めることはない」とこの点をあらためて強調しました。  他方、ロシア側の交渉代表者を務めたグルシュコ外務次官(ロシアの役所には複数の次官がおり、そのうえに第一次官、さらにそのうえに大臣がいるという構造になっている)は、「ロシア側の提案の都合のいい部分だけを選ばれることは容認できない」として、NATO不拡大提案が受け入れられなかったことに不満を示しています。 (https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-nato-russia-idJPKBN2JM1G5)  13日に行われたOSCE(欧州安全保障協力機構)との協議も同様の結果に終わっています。この点は『朝日新聞』に端的な要約があるので以下に抜粋してみましょう(https://digital.asahi.com/articles/ASQ1G65PXQ1GUHBI008.html)。 「ロシアの主な要求は三つ。1. NATO拡大を停止し、旧ソ連のウクライナ、ジョージアの加盟を認めない 2. NATOの東方拡大が決まった1997年以降、東欧に配備した部隊、兵器を撤去 3. ミサイル配備規制や軍事演習の制限――などだ。米国とNATOは「『開かれたNATO』の原則」を盾に拡大停止は「問題外」とし、兵器の撤去も拒否。軍縮や双方の透明性を確保する措置などについてだけ、協議の継続を提案した」  1週間の間に集中的な協議の帰結は、どれもひとつの方向性を示しています。つまり、軍備管理や信頼醸成については話し合うことができるが、NATO不拡大に関するロシアの要求は認められないというのが西側の立場である、ということです。  そして、前掲の第158号で述べたとおり、これこそがロシアの要求の本丸であることを考えるならば、一連の協議は決裂に終わったと見てよいでしょう。たしかにリャプコフ次官は今回の協議に関して「アメリカ側は、ロシアの提案を真剣に深く考えている印象を受けた」と述べているものの、その結果は前述のとおりです。  さらにいえば、ロシアがウクライナ国境付近に部隊を集結させてはじめて「NATO東方不拡大」というアジェンダを「真剣に深く考え」るようになったのだとすれば、ロシアは軍事的威圧の効果に関して一種の手応えさえ感じているのかもしれません。 ・続く部隊集結  この間にも、ロシアはウクライナ国境周辺への軍事力展開を着々と続けていました。

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