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週刊 Life is Beautiful 2022年2月8日号:自社製チップと粗利益率

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん 自社製チップと粗利益率 先週、TeslaとAppleの決算が発表されました。Tesla の決算結果についての細かな話を知りたい人は、Voicy の「Tesla の決算を分かりやすく解説」を聴いて下さい(メルマガと Voicy をどう使い分けるかは模索中です)。 決算発表の中で、私が最も注目していたのは、「売り上げ(revenue)」の伸びと「粗利益率(gross margin)」です。成長が落ち着いた成熟した会社においては、「営業利益(income from operations)」や「利益(net income)」が重要ですが、Tesla のように成長が著しい会社の場合、営業利益や利益にはノイズが多いので(Tesla の場合、CEO の Elon Musk に対するボーナスが最も大きなノイズです)、まずは「売上」と「粗利益率」を見るべきなのです。 粗利益率とは、売上から売上原価(cost of goods)を引いて求めた粗利(gross profit)を売上で割って求める数字です。 粗利益率 =(売上 - 売上原価)÷ 売上 自動車の場合で言えば、さまざまな部品や素材のコスト、消耗品、人件費、光熱費、機材のリース費用など、自動車を製造する際に直接必要な費用をすべて合わせたものが売上原価です。 「直接費用」であることが重要で、研究開発費、宣伝広告費、営業費、事務費、(建物の)減価償却費などは含みません。 粗利益、もしくは粗利益率が重要なのは、研究開発や建物に対する投資を粗利益によって回収し、その後は利益を出す、というのがどんなビジネスにおいてでも基本だからです。 日本でタケノコのように作られた「タピオカ屋」の場合、店舗の設置コスト(初期費用)が高々300〜500万円なのに対して、1杯500〜600円するタピオカの粗利益率がとても高いのです(材料費だけだと80〜90%、人件費を含めても50%以上)。そのため、数ヶ月間で初期費用が回収出来て、その後は継続的に利益を生み出すことが出来るのです。 こんなビジネスの累積損益をグラフにすると下のようになります。最初は初期投資分だけ赤字ですが、売り上げをあげるたびに粗利益の分だけ赤字が減り、ある時点からプラスに転じます。実際には、売上原価以外に、広告宣伝費や営業・事務費用がかかるため、もっと複雑ですが、ビジネスのベースには、この「初期投資を粗利で取り返して、黒字に転じる」ことがあることを覚えて下さい。 粗利益率が大きいということは、このグラフの傾きが大きいことを意味し、その分だけ、早く初期投資を取り戻すことが可能なことを示します。逆に言えば、粗利益率が大きなビジネスは、大胆な初期投資をすることが可能だし、広告宣伝や営業活動に回すお金も潤沢にあることを示しています。 ここで Tesla と Apple に話を戻すと、それぞれ粗利益率が約30%、40%という結果でした。これはハードウェアを売っている会社としては驚異的に高い数字です。パソコンメーカーや自動車メーカーは、10〜20%が普通で、例えばトヨタ自動車は直近の決算で粗利益率は約16%でした。 Tesla と Apple の両方に共通する点は、二つあります。どちらもハードウェア・メーカーでありながら、ソフトウェアで勝負(差別化)をする会社であり、かつ、心臓部のチップには自社製品を使っている点です。 ソフトウェア企業の粗利益率はとても高いことが知られています。代表的な、Microsoft の場合だと、その粗利益率は80%を超えています。これは、ソフトウェアの「原材料」が不要なためです。ソフトウェアの売上原価として計上されるのは、電気代と、(消耗品扱いされる)サーバーの減価償却費ぐらいです。 Tesla と Apple は、ハードウェア・メーカーではあるものの、大きな価値はソフトウェアやサービスにより生み出しているため、粗利益率が通常のハードウェア・メーカーよりも高くなるのです。特に Tesla の場合、オートパイロットや自動運転機能はハードとは別売りのソフトウェアオプションなので、その部分だけ見ると粗利益率はほぼ100%なのです。 自社製チップも粗利益率を高くすることに大きく貢献しています。心臓部のチップを Nvidia や Intel から購入する場合、その購入価格すべてが「売上原価」に加算されます。 例えば、トヨタ自動車 が Nvidia から自動運転用の2000ドルのチップを購入していると想定しましょう(実際、Tesla も昔はそうしていました)。その場合、その2000ドルが売上原価に加わります。 Nvidia は、そのチップの製造を TSM に委託していますが、Nvidia が TSM に製造原価として支払っているのは800ドル程度なのです(40%)。つまり、2000ドルのうち、1200ドルは Nvidia の粗利益なのです。Nvidia は、その粗利益を使って、莫大な研究開発費を回収し、その後は利益をあげるのです。 そのため、トヨタ自動車が自動運転機能を4000ドルで売ったとしても、粗利益は1000ドル、粗利益率は25%にしかならないのです。 しかし、Tesla は今は自分で開発したチップを採用し、Samsung に製造を委託しているため、(値段が同じだと仮定すると)製造原価は800ドルしかかかりません。同様に4000ドルで自動運転機能を販売したとすれば、利益率は80%になります。

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