松尾スズキの、のっぴきならない日常
/ 2022年2月11日発行 /Vol.502(2/2)
「人生に座右の銘はいらない」
読者からの相談や質問に松尾スズキが独自の視点でお答えします!
Q.職場の後輩が、どうやら仕事のストレスで鬱になってしまったようで、まだ病院には行ってないようですが有給使って会社を休んでいます。そんなときに上司から「一度、話を聞いてきてくれないか」と頼まれました。どうにか連絡がついたので、今度、彼の地元でメシを食うことになりましたが、なにをどう話せばいいのかよくわかりません。お互い独身ですが、仲の良さは普通というか、お互いの本音までは話したことない気がします。それで、人間の心にお詳しい松尾さんにお伺いしたいのですが、彼に会ったときに気をつけたほうがいいことや、やってあげるべきこととあれば会う前に知っておきたいです。漠然とした相談で恐縮ですが、なにかヒントがあればよろしくお願いします。(28歳、男性、会社員)
A.ずいぶん重い荷を背負わせますね。相手がどんな人間か知らない以上、うかつな進言はしかねますが、正直に、上司に聞いてこいと言われたと切り出したほうが向こうも肩の力が抜けるんじゃないかなと推測します。まあ、それだけでは相手のプレッシャーになりかねないので、もちろん自分も知りたいし、というエクスキューズはつけたほうがよろしかろうとは思いますが。
鬱の程度によりますが、まったく一人になりたい人もいれば、少しは人に話を聞いてほしい人もいると思うのです。鬱だという人と3時間ほど話したこともあるのですが、その人は自殺願望もなく、話したい、というタイプの方でした。話を聞いてもらうことが良い方向に向かう感じでした。とにかく、人のタイプと病気の程度による、というのを心したほうがよく、これ以上踏み込んではいけないラインを超えそうになったら、あっさり話題を変えて、キリの良いところでサヨナラしたほうがいいと思います。あなただって、そこまで荷を背負わされる立場じゃないし、鬱と向き合うのは本人と医師の問題であります。しょせん、正常な精神状態の人間に鬱の人の気持ちなどわかりようがないのです。
私は今、四六時中首が痛いのですが、首が痛くない人間に自分の気持がわかってもらえるとは100%思えません。
心のことを考えれば考えるほど、人の心は「わからない」という壁にぶち当たる。だから心は面白いわけですが。個人的にサウナを勧めたら少し改善したケースもあります。運動する気力もない人の血行をよくするために、悪い行為ではないと思います。時が時なので行きづらいわけですが。とにかく、鬱の引き金はプレッシャーだと思うので、休める状況があるのであれば、休んでほしいですね。脳みその病気なんですから。
Q.社内の昇進試験に通ったのはいいのですが、この春に異動する部署で、新人時代の元上司が自分の部下になることに。かなりパワハラ系の上司だったこともあり、正直、今から、やりにくい気しかしません。仕返しとかするつもりはありませんが、その上司の評判を聞くと、素直に従ってくれるとも思えず。松尾さんは演出家や映画監督として、年上の俳優さんを演出することも多いと思うのですが、なにか気をつけていることはあるのでしょうか? 昇進して嬉しくないことって、あるんですね……。(41歳、男性、会社員)
A.たしかに、自分の周りで昇進して嬉しそうな顔をしている人をあまり見かけません。自分はキャリアの出発点が座長なので、それ以上昇進しようがなく、男子の本懐は出世、という言葉もありますし、そういう制度を羨ましくは思いますが。ああ、上演する劇場が大きくなっていく、は、出世に近いのか。ただ、シアターコクーンより大きな劇場に行っても、思うように仕事ができる気がしませんし、昇進には昇進のストレスがあるというのは、なんとなくわかります。
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