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山村隆氏:コロナ後遺症を甘くみてはいけない[マル激!メールマガジン 2022年2月16日号]

マル激!メールマガジン
マル激!メールマガジン 2022年2月16日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1088回) コロナ後遺症を甘くみてはいけない ゲスト:山村隆氏(医師、国立精神・神経医療研究センター特任研究部長) ──────────────────────────────────────  新型コロナウイルスのオミクロン変異種の感染拡大によるパンデミック第6波が高止まりの様相を呈している。しかし、政府は、まん延防止等重点措置の対象地域は順次拡大しているものの、今のところそれ以上の踏み込んだ施策を実行する構えは見せていない。一般市民の反応も、どこか危機感に欠ける印象を受ける。  何といっても当初から「オミクロン株は感染力は強いが重症化しにくい」との言説が広がっていたことが、市民社会の今回の第6波に対する構えに影響していると見ていいのではないか。確かに、重症化する患者の数は今のところ第5波のそれを大きく下回っていることは事実だが、医療体制が脆弱な日本では、仮にオミクロンの重症化率がデルタの10分の1であっても、感染者数がその10倍を超えれば、前回を上回る医療逼迫が起きるリスクがある。  また、「オミクロンは重症化しない」という楽観論が一つ決定的に見落としていることがある。それがコロナ後遺症(Long Covid)の問題だ。日本ではなぜかメディアの関心が感染者数と医療の逼迫状況にばかり集まり、コロナウイルスの感染者が、感染が治癒した後に発症する様々な後遺症に対して、必ずしも十分な注意が払われていないようだが、欧米のコロナ報道では感染者数よりもむしろ後遺症の方に中心が移りつつあるようだ。  日本よりコロナ後遺症の研究が先行している欧米の数万人規模の調査や、昨年行われた世田谷区の大規模な調査によると、コロナ感染者の少なくとも4人に1人が、コロナ感染症の直接の症状が収まり、PCR検査で陰性となった後も、持続的な嗅覚・味覚異常や全身の倦怠感、「ブレインフォグ」と呼ばれる意識障害や記憶障害、頭痛や全身の筋肉痛、関節痛などに悩まされているという。 こうした後遺症は大半のケースで概ね1年以内には収まる傾向にあるようだが、中には1年以上も症状が続き、複数の症状を抱えたまま、社会生活の継続が困難になっている事例も少なからず報告されている。  神経内科学や神経免疫学が専門で自身でも100人を超えるコロナ後遺症の患者を診察している国立精神・神経医療研究センターの山村隆特任研究部長は、最新の海外の論文でコロナ後遺症が免疫異常に原因があることはほぼ解明されていると語る。 山村氏によると、最近、主要な医学雑誌に掲載された最新の研究論文で、新型コロナウイルスによる嗅覚異常が、ウイルスで壊れた残骸を処理するマクロファージなどの細胞が作りだす炎症物質によって、神経細胞の機能が撹乱されることによって起きていることが明らかになっているという。また、別の研究ではブレインフォグの症状を持つ患者の7割の髄液から、オリゴクローナル・バンドと呼ばれる反応が見られたことから、これらの患者の脳内で強い免疫反応が起きている疑いが濃いことも明らかにされたという。  免疫が作用する仕組みは素人には分かり難いところがあるが、要するに体内に侵入してきたコロナウイルスと戦うために発動された自身の免疫細胞が、何らかの理由でウイルスがいなくなった後も作られ続けてしまい、その細胞自身か、その細胞が作り出す何らかの物質が、自分自身の細胞を傷つけることによって発症するのがコロナ後遺症の正体だというのだ。しかも何らかの理由で、自身の細胞を傷つける物質が、脊髄を経由して脳に上がっていることもわかってきたが、その理由についてはまだ証明されていないのが実情だという。  山村氏の診ているコロナ後遺症患者の中にはコロナ自体は無症状だった人も多いというが、コロナ後遺症が免疫異常に起因するとの見立てに基づきステロイド投与を行った結果、効果をあげている事例が多いという。しかし、いずれにしてもまだ、コロナ後遺症の深刻さやその原因、対処法については、医療界の理解も、またメディアや一般社会の認識も、まったく足りていないところが問題だと山村氏は指摘する。  今回のマル激では神経内科や免疫内科が専門の山村隆氏とともにコロナ後遺症の現状を検証した上で、山村氏にコロナ後遺症とその原因に対する最新の知見や今後の見通しなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・メディアが報じない、深刻なLong Covidの実態 ・重点主義の日本医療にあったエアポケット ・ウイルスはなくなっても、抗体がわるさをし続ける構造 ・何より重要な早期治療 かかる病院の選択を +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■メディアが報じない、深刻なLong Covidの実態 神保: 今回は「コロナ後遺症」という言い方が正しいのか、英語で「Long Covid」と言われている問題を取り上げます。終わってから後に残るものなのか、症状が続いているということなのか、そこも定義する上で重要なポイントかもしれませんが、これをしっかりやろうと。 宮台: 「後遺症」と「治っていない」は違いますね。 神保: そうですね。そもそも、コロナの症状がもともと何なのか、ということも難しいところがあります。ウイルスが何かを直接攻撃して症状が出ている場合と、サイトカインストームのようなリアクションとして色々なものが起きるのか、ということでも違う。これは難しい話なので、ずっと専門の方にお話を伺いたいと考えていて、今日は幸いにもそれが実現しました。ゲストは国立精神・神経医療研究センターの特任研究部長で、神経内科、免疫学等がご専門の山村隆さんです。  まず、「コロナ後遺症」というテーマで、なぜ神経内科の先生なのだろう、ということですが、先生は新型コロナにどうかかわっていらっしゃるのか、というところから聞かせてください。 山村: 私は自己免疫性の脳炎、自己免疫性の神経疾患など、もともと脳の中で免疫が悪さをする病気を専門にしており、そうした臨床経験があるなかで、コロナの発症のあとに、似た症状を訴える患者さんが多いと。そういう方が私のところに診察を求めてこられた、ということがあります。もう100人くらい診ており、いまも継続している方と、よくなって卒業された方もいます。

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