ドクター畑地の診察室128.2022.2.20.
現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。
世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います!おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者(肺癌、喘息、COPD、肺炎など)を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説&ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信!
https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/
三重県出身 自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる
現在、松阪市民病院統括副院長兼呼吸器センター長
診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け!radioを聴いてらんらんらん(lung lung lung)」という毎週月曜日放送の番組を担当
https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php
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膿胸
肺に(正確に言えば肺の外で胸郭と肺の間の胸腔内)膿が溜まってくる病気のことを“膿胸”と言います。左肺より右肺に起こってくることが多く、言い方が少し悪いのですが、不衛生なおじさんやおばさんに多い病気です。
何故、少し不衛生な人が罹患するのか、原因は“歯”です。身だしなみなど気にしない人が圧倒的に多く、とにかく歯も気にしていない、虫歯だらけで治療もしていない人が多いです。また健康にも気をつけてないので糖尿病に人が多く、背景に糖尿病があって虫歯だらけの人が膿胸になりやすいのです。虫歯に付着する嫌気性菌が口から肺に落ちる、糖尿病で抵抗力も落ちていると言うことで膿胸になるわけです。
気管はちょうど心臓の真上で2つに分かれています。左胸に心臓があるため、左側の気管の分岐角度は右側よりも水平に近くなります。そのため、虫歯についた嫌気性菌が肺に落ちるとき、圧倒的に右側の肺に落ちやすく、しかも背中側に落ちやすいのです。右側の肺に膿胸ができやすい理由、それは気管の分岐角度が左側よりも垂直に近く、右側により雑菌が落ちやすいからです。
膿胸になると多くの用量の抗生物質を使用して治療するのですが、大量に膿が溜まっているため抗生物質だけでは治らないことも多く、胸腔内に管を入れて膿を抜かないといけません。と言っても、水を抜くイメージで膿は簡単には抜けません。なぜなら、水はサラサラなで簡単に抜けるのですが、膿はかなり粘性が高く、時間の経過とともに一部分が固まってしまい多くの隔壁ができてしまうため、太いチューブを入れるだけでは全く抜けないことも多いのです。
そのため、太いチューブから固まった血を溶かすような薬(商品名:ウロキナーゼ)を胸腔内に入れることもありますが、うまく隔壁が融けてくれることは少なく、外科的な手術もしくは胸腔鏡を用いて時間をかけ、1つ1つ隔壁を除去しながら膿を抜かなければなりません。さらに時間が経過した膿胸は、膿を除去しても肺の表面が硬くなってしまっているためにうまく肺が膨らまず、空いたスペースにまたすぐに膿が溜まってきてしまうこともある非常に厄介な病気です。さらに治癒しても、膿胸の跡からリンパ腫が発生することもあります。
膿胸の人をみるたび、歯をきれいにすることの大切さを感じる今日この頃です。
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