今回は、中世ヨーロッパ学の大家・池上俊一さんによる研究の集大成ともいえる『ヨーロッパ中世の想像界』という書物の書評をお送りします。この大部な書物の概要がわかるだけも助けになるでしょう。書評は立教大学史学会の雑誌『史苑』の次号に掲載される予定で、校正もすんで出版を待つばかりとなっています。今月末に行われた国際会議の原稿は翻訳する時間がなかったので、3月中に号外のかたちでお送りできたら良いなと思っています。
池上俊一『ヨーロッパ中世の想像界』(名古屋大学出版会、二〇二〇年)
本書は、射程や手法を説明する序章(四六頁)につづいて、四部構成の本体(六八六頁)、そして終章(五二頁)、さらに注(四七頁)や参考文献(八〇頁)、最後に人名索引と史料索引が付され、全体として約九五五頁という浩瀚な一冊となっている。以下では、著者自身の言葉にそって本書の概要を紹介したのちに、評者の所感をつづってみたい。
「想像界の歴史学」と題された序章は、「想像界へのアプローチ」「驚異の役割」「本書の概要」の三節からなる。冒頭で、中世ヨーロッパにおける「想像界」(イマジネール imaginaire)の全体像を、その歴史的な変容とともに解明することが本書の目的だと宣言される。さらに踏みこんで、想像界の「全体構造」を解明することが目標だともされる。著者によれば、イマジネールという「媒質」の特徴を理解することなしに、中世ヨーロッパ人の思考の理由も行為の意味も理解できないという。
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