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【Vol.420】冷泉彰彦のプリンストン通信『ウクライナ戦争とアメリカ』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「新しい意味を持ち始めた、ボストンマラソン爆弾事件」  2013年4月15日に発生したボストン・マラソン爆弾テロ事件につい ては2015年4月28日の「第061号」で、この欄である仮説を提示し ています。  その前に事件の概要ですが、ボストン・マラソンのコースに圧力釜を使っ た爆弾を設置して5名を殺害したという凶悪な事件でした。事件後には、容 疑者兄弟の追跡劇の結果、兄は死亡、弟は逮捕。その後、重傷を負った弟の ジョハル・ツァルナエフは、その後容体が回復する中で、裁判となり一審が 死刑、二審が死刑破棄となっていました。  この事件には大きな謎があります。それは犯人のツァルナエフ兄弟は、チ ェチェンの出身、正確に言うとチェチェン系のキルギス人だったと言う点で す。にもかかわらず、事件後のアメリカでは、兄弟がチェチェン独立派に共 感して行ったテロという可能性は全く話題にならず、アルカイダに洗脳され て事件を起こしたというストーリーが「定説」となっています。  オバマとしては、チェチェン派のテロだということになれば、得をするの はプーチンだからであり、あくまでアルカイダの影響を受けたテロというこ とにしたかったのだと思います。  もっと言えば、兄弟が仮にチェチェン独立派であるのなら、アメリカでテ ロを起こすというのは自殺行為になります。アメリカには、プーチンによる チェチェンへの徹底弾圧を「やり過ぎ」だと考える世論があり、例えば共和 党のマケイン、そして民主党のオバマ、ヒラリーなど、プーチンの横暴に対 して警戒心を持った政治家も多いのです。  そのアメリカで、チェチェン関係者がテロをおこなったとして、得をする のはプーチンです。ということで、これは全くの私見ですが、オバマはこの 事件に関して「プーチンの間接的関与」を疑ったのだと思います。これは当 時の私の私見ですが、今でもその疑念は残っています。  例えばですが、「やらせた」のではないにしても「泳がせた」ということ は十分に有り得るということです。事件の直後に、オバマは兄弟に関する捜 査資料を受け取るために、モスクワにFBIの捜査官を派遣しましたが、実 際にモスクワに行ったのは「FBI長官」であったという極めて異例な対応 をしています。  その「FBI長官」とは、後にトランプのロシアとの癒着を捜査すること になる、ロバート・ムラーだというのは、偶然とは思えません。  興味深いのは、プーチンのウクライナへの侵攻後、先週末の2022年3 月4日に、連邦最高裁がジョハル・ツァルナエフに関する「死刑破棄」を差 し戻し、「死刑判決の確定」を行ったということです。  この判決ですが、評決は「保守の6名が賛成、リベラルの3名が反対」と いう結果だったということです。表面的には、死刑に積極的でテロに厳しい 保守派が死刑に賛成し、リベラルが反対したというように見えますが、その 奥には、「プーチンの工作があったとして、今、ジョハル・ツァルナエフの 死刑を確定させることで、改めてプーチンへの抗議を示した」という見方も 可能は可能です。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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