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第169号(2022年3月21日)ロシアの非核エスカレーション抑止攻撃

小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略
存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。 【目次】 ●NEW CLIPS 撃たないで ●今週のニュース 「ウクライナの大量破壊兵器開発」ほか ●インサイト NATOの軍事援助に対するロシアの非核エスカレーション抑止攻撃 ●NEW BOOKS 塩川伸明『ウクライナ戦争をめぐって』 ●編集後記 ウクライナ戦争をめぐる長期の言論に向けて =============================================== 【NEW CLIPS】撃たないで  ロシアのシンガーソングライターであるゼムフィーラが『撃たないで(Не стреляйте)』のミュージックビデオをYouTube上にアップしました。 <https://www.youtube.com/watch?v=4rynqvi4tS0&t=5s>  もともとは2010年に作られた曲ですが、今回の戦争のためにアレンジしたニューバージョンのようです。 【今週のニュース】「ウクライナの大量破壊兵器開発」ほか ・ロシアの対インド軍事協力は継続  2022年3月18日、ロシアのデニス・アリポフ駐インド大使は、AK-203自動小銃の現地生産が間も無く開始されると明らかにした。2019年に設立が発表されたインド・ロシア・ライフル私有会社(IRRPL)が約60万丁を生産する(https://tass.ru/politika/14112679)。  また、アリポフ大使は、インドに対してS-500防空システムを供与する用意があるとも述べた(https://tass.ru/politika/14113061)。インドはロシア産原油の購入にも意欲を示していると伝えられ、西側からの孤立化が進む中で(そして中国への過度の依存を避けるために)インドの重要性が増していることが窺われよう。 ・ウクライナの「大量破壊兵器保有」に関するパトルシェフ国家安保会議書記発言 『RIAノーヴォスチ』2022年3月15日 <https://ria.ru/20220315/oruzhie-1778280543.html>  ロシアのニコライ・パトルシェフ国家安全保障会議書記は、ウクライナが「米国の顧問」の後押しを得て生物兵器と核兵器を開発していると発言した。パトルシェフによれば、ウクライナにはそのための能力、技術、材料、運搬手段が揃っており、全世界にとっての脅威である。  ウクライナが外国の後押しを受けて大量破壊兵器の開発を進めているという言説は開戦直前のプーチン大統領の発言にも見られたが、米国が名指しされたのはおそらくこれが初めてであると思われる。 【インサイト】NATOの軍事援助に対するロシアの非核エスカレーション抑止攻撃 ・攻勢限界?  ウクライナ戦争が始まってから4週間目に入りました。この間、ロシア軍の攻勢は南部でヘルソン州の大部分を掌握し、クリミアとドンバスを繋ぐ回廊地帯も確保しました。  一方、首都キーウと第二の都市ハルキウは驚くべきことにまだ保っています。両市をめぐっては激しい戦闘が続いていますが、ウクライナ軍の抵抗はかなり頑強であり、既に4人のロシア軍将官を含む多くの将校が戦死していると伝えられます。ロシア陸軍の将官は20人とされるので、実に5人に1人が戦死した計算です。  戦死した将官の内訳は以下の通り。 ・アンドレイ・スホヴェツキー少将(中央軍管区第41諸兵科連合軍副司令官)  2月28日戦死 ・ヴィタリー・ゲラシモフ少将(同軍参謀長兼第一副司令官)  3月7日戦死 ・アンドレイ・コレスニコフ少将(東部軍管区第29軍司令官)  3月11日戦死 ・オレグ・ミチャエフ少将(南部軍管区第8諸兵科連合軍第150自動車化歩兵師団長)  3月16日(?)戦死 (3月19日には南部軍管区第8諸兵科連合軍司令官のアンドレイ・モルドヴィチョフ中将が戦死したという情報も出てきたが、未確認)  この中には前線に激励に出てきたところをスナイパーに狙撃された事例もあるようですが、ウクライナ国防省が公表している以下の動画(なんらかの長距離兵器で東部軍管区第35諸兵科連合軍の野戦司令部が攻撃を受けている様子)などを見ると、司令部の場所を掴まれて攻撃を受けた、という事例もあるのかもしれません。 <https://twitter.com/DefenceU/status/1504171500919791618?s=20&t=-_hGgYPRgIS1qxLlJviD5g>  これで戦争が完全に膠着状態に陥ったのかどうかは、まだ判断できません。米国のシンクタンク「戦争研究所(ISW)」の3月17日付けレポート(https://www.understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-march-17)によると、ロシア軍はウクライナ北東部周辺に第1親衛戦車軍とバルト艦隊海軍歩兵部隊を予備隊として配置したとされ、ハルキウに対して改めて大規模な攻勢を企図している可能性はあります。  したがって、時間がかかってもロシアがキーウやハルキウを陥落させる可能性は依然、残っています。前号(https://note.com/cccp1917/n/ne0b0edc5ebf8)でも触れたように、ロシアはシリアから傭兵を募って市街戦要員にしようとしているとも見られ、最近ではその人数が4万人にも上っているという話も出てきました(https://www.jiji.com/jc/article?k=2022031501258&g=int)。  同時に、おそらくこのくらいがロシア軍の攻勢限界になるのではないか、という想像もつきます。ゼレンスキー大統領以下のウクライナ政権幹部が西部のリヴィウなどに逃れてそこから抵抗を継続するとした場合(その可能性が高い)、ロシア軍がそこまで追撃していくということは、兵力から考えても兵站能力から考えても困難であると思われるためです。  ロシア軍はまだウクライナ戦線に投入されていない兵力も根こそぎかき集めて動員しているようですが(以下に示すように、太平洋艦隊の揚陸艦が部隊を移動させている様子が自衛隊によって確認されている)、これ以上の大突破を図るのはどうにも難しいのではないでしょうか。 ・西側の軍事援助と神経を尖らせるロシア

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  • ロシアは今、世界情勢の中で台風の目になりつつあります。 ウクライナやシリアへの軍事介入、米国大統領選への干渉、英国での化学兵器攻撃など、ロシアのことをニュースで目にしない日はないと言ってもよくなりました。 そのロシアが何を考えているのか、世界をどうしようとしているのかについて、軍事と安全保障を切り口に考えていくメルマガです。 読者からの質問コーナーに加えて毎週のロシア軍事情勢ニュースも配信します。
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