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松尾スズキの【のっぴきならない日常】vol.508(2/2)

松尾スズキの、のっぴきならない日常
_________________________ / 2022年3月25日発行 /Vol.508(2/2) _________________________ 「人生に座右の銘はいらない」 読者からの相談や質問に松尾スズキが独自の視点でお答えします! Q.ギックリ腰、辛いですよね。劇的な治療法はないと言いますし、どうぞお体大切になさってください。ところで、たしか小学生か中学生のころに大きな病気をされたと思うのですが、そのほかにケガや病気は、なにがありましたか? また最近の松尾さんは、健康な感じがしますが、なにか意識されていることはあるのでしょうか? 私は40歳を越えてから、体中にいろんなガタがきています……。(41歳、男性、会社員) A.わたしは小学校の時、右足のスネを骨折。中学校のとき、謎の腎臓病で入院。大人になってからは、皆がするようなインフルエンザや胃腸炎などになったことはありますが、大した病気はしていません。ただ、ときどき首のヘルニア、そして腰痛には悩まされております。 今後、酒を飲むな、と、どんどん言われ続けると思います。アルツハイマーにも、よくないと聞きますし。そのとき自分はどうすべきか……だと思います。飲むために生きているようなものなので。 生き物として40過ぎたら体が思うに任せなくなってくるのは、普通のことかと。それに慣れて、思うに任せないなりの動きを会得するのは、それもまた普通のことかと。 Q.仕事のモチベーションについて相談です。昭和のサラリーマンは、毎年のように給料が上がっていたといいますし、それなら、合わない仕事でも「お金のため」と思って頑張れるじゃないですか。でも、もう、そんな感覚でいられないくらい不況ですし、この先もコロナ、ロシアの影響で良い未来は望めません。そんな状況でも働く意欲を保つにはどうすればいいのでしょうか。バブル、経験してみたかったです……。(29歳、男性、会社員) A.自分もバブルの恩恵は感じたことがありません。むしろ、一番貧乏でした。それでも、世をはかなんでいなかった、という点においてバブリーだったのかもしれません。部屋に風呂はありませんでしたけど。コインランドリーで回る洗濯物を見つめながら、「売れたらどうしてやろう」と思い巡らすことができた。それは、やっぱり幸せだったということでしょうか。とはいえ、文筆家としてデビューして、一度たりとも原稿料が上がったことはありません。30年間です。いや、デビュー時は400字詰め原稿用紙一枚で8千円でしたが、今はせいぜい5、6千円、確実に下がっています。近年でも、『東京の夫婦』は初版8千部でしたが、『人生の謎について』は5千部でした。わずか数年で3千部も下がっているのです。キャリアなんて、まったく物を言わない。現実が厳しすぎます。もはや物書きだけでは食っていけないんだな。それをしみじみ噛み締めています。 おのれの消費期限というものを考えざるを得ませんし、ここから、ぱっと一花というビジョンも思い浮かびません。腰が痛すぎるからだと思います。旬という言葉で考えると、とても59歳の自分に、これから訪れるものではないでしょう。かつて旬があったのでしょう。多分、『恋の門』を撮った前後あたりです。あの頃は、何を書いても本になりました。そこで旬をきちんと掴みそこねたのだと思います。なにかこう、あっちに手を伸ばし、こっちに手を伸ばして、うっすら失敗し続けたすきに過ぎ去っていたのです。手にしたのはカリスマっぽさだけで、税理士が無能だったせいで、浮いた金はほとんど税金と化し消えました。その頃の全能感あふれるわたしを知らないから、今の妻はわたしを、なんか、なめているんです。 今、なぜかわたしに旬を嗅ぎ取ってくれるのはWOWOWさんだけかもしれません。嗅ぎ取ろうとする者の前では、旬が出てくるのです。20年前、掴み取りそこねた分の旬がまだ残っていたのです。旬という字は筍に似ています。必死で地面を掘れば見つかるものです。あなたも、自分の旬をなんとか嗅ぎ取って掘り出してみてください。

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  • 松尾スズキの、のっぴきならない日常
  • 有名役者がひしめく「大人計画」を主宰し、芥川賞候補の作家、岸田國士戯曲賞受賞の演出家、現代日本を代表する怪優など、才能が溢れすぎて困っているのに、謙虚な佇まいが魅力的すぎる松尾スズキ。そんな彼のメルマガは、日記、質問&人生相談(もちろん本人が答えます)など読み応えタップリ! これだけのボリュームで月々たったの500円!!
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