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第170号(2022年3月28日) 苦戦続くロシア、粘るウクライナ、踏み込めない西側

小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略
存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。 【目次】 ●NEW CLIPS ロシア海軍の揚陸艦が爆発 ●今週のニュース 北方領土で「3000人動員」の軍事演習 ●インサイト 苦戦続くロシア、粘るウクライナ、踏み込めない西側 ●NEW BOOKS 『文明と覇権から見る中国』ほか ●編集後記 来年こそ平和な花見を =============================================== 【NEW CLIPS】ロシア海軍の揚陸艦が爆発  3月24日、アゾフ海のベルジャンスク港に入港していたロシア海軍の揚陸艦が爆発炎上する様子が撮影された。 <https://www.youtube.com/watch?v=fBAEcRCV6rs>  ウクライナ軍はこの数日前からベルジャンスク港をトーチカ-U戦術弾道ミサイルで攻撃していたが、今回の爆発が同じくトーチカ-Uによるものであるかどうかは明らかでない(事故説もあるい)。なお、この攻撃を受けたのは1171型揚陸艦であったとみられ、のちに沈没した。  このほかには775型揚陸艦2隻が損害を受けたとされる。 【今週のニュース】北方領土で「3000人動員」の軍事演習  3月25日、ロシア国防省は、クリル列島(北方領土と千島列島)で軍事演習を開始したことを明らかにした。開戦以来、ロシア国防省のサイトは閲覧できなくなっているので、この発表に言及した『フォンタンカ』紙(サンクトペテルブルグの有力地方紙)の記事を参考にした(https://www.fontanka.ru/2022/03/25/70531736/)。  この記事によると、同演習は人員3000人以上と装備品数百点を動員したものであり、特に対戦車ミサイル、ギアツィント-S152mm榴弾砲、サーニ迫撃砲、オルラン-10及びエレロン-3無人偵察機が動員されたという。  ところが第168号で紹介したように、北方領土駐留の第18機関銃砲兵師団(18PuAD)の主力はあらかた抽出されてウクライナ方面へ送られたとみられている(https://note.com/cccp1917/n/ne0b0edc5ebf8)。18PulADの兵力は実質3000人強と見られているから、本当に3000人規模の演習が行われたのなら、兵力のウクライナ展開が行われたという(ウクライナ国防安全保障会議の)情報は嘘であったことになる。  この問題に対する筆者の現時点での印象は、「やはりウクライナ側が正しく、ロシア側が兵力動員数を盛っている」というものである。  第一に、ロシア側の発表に出てくるのは対戦車部隊や砲兵部隊ばかりであり、戦車や自動車化歩兵といった師団の主力が登場しない。  第二に、衛星画像で見てると、択捉島のブレヴェストニク飛行場ではしばらくの間除雪作業が行われておらず、航空機の運用能力が一時的に失われてしまっていることがわかる。 これはブレヴェストニクのヘリ部隊や飛行場運用要員がウクライナへと送られたことを示唆する…ということをやはり第168号では書いたが、これを裏付けるように、今回の演習には航空機が登場しない。従来、大規模な演習の場合には本土からブレヴェストニクにSu-25が飛来して近接航空支援をすることが多かったのだが、おそらく今回は飛行場自体が運用可能な状況にないのではないか。  最後に、ロシアが演習の「規模を盛る」のは別に珍しいことではない。毎年秋に実施される軍管区レベルの演習について、10万だ20万だ30万だとロシア国防省はいうが、おそらくこれは「本来このくらいの兵力を動かすということを想定した演習である、という意味であって、実際に動いている兵力はずっと少ない」と軍事専門家の間では長らく指摘されてきた。  以上のようなことを考えるに、今回の北方領土演習も「本当なら3000人動員というつもりでやっている(実際にはより小規模な)演習」と受け取っておくのが妥当ではないだろうか。 【インサイト】苦戦続くロシア、粘るウクライナ、踏み込めない西側 ・開戦1ヶ月で戦況は一進一退  ウクライナでの戦争は、開戦から1ヶ月を経ました。当初の予想を大きく裏切ってロシアはウクライナを攻めあぐね、戦争の出口はいまだに見えてきません。  この状態が膠着を意味するかどうかはまだわからないと前号(https://note.com/cccp1917/n/n95e8946975d5)では述べましたが、それから一週間を経ても、戦況は大きく変わっていません。相変わらずキーウやハルキウは陥落せず、むしろ前者の周辺ではウクライナ軍が部分的に反撃に出てロシア軍に防勢を強いてさえいます。  米国防総省によると、ロシア軍はキーウ北西部15-20km地点で前進を止め、塹壕を掘って防勢に入っており、東部では20-30kmまで迫っていたロシア軍が55kmのところまで後退したとされています(https://www.defense.gov/News/News-Stories/Article/Article/2976571/battle-in-eastern-ukraine-heats-up-as-russians-are-driven-back-east-of-capital/)。  また、ベルジャンスクでは何らかの手段でロシア海軍の揚陸艦を撃沈するという成果を挙げたらしいことはNEW CLIPSのコーナーで紹介したとおりであり、さらに3月25日には6人目の将官(南部軍管区第49諸兵科連合軍司令官のヤコフ・レゼンツェフ中将)が戦死したという情報も出回りました(これ以外に国家親衛軍の将軍も一人戦死しており、ロシア全体では計7人 https://www.afpbb.com/articles/-/3397062)。ウクライナ軍がロシア軍の攻勢を凌ぎながら、可能な範囲で逆襲を続けていることが見て取れます。  また、ロシア軍に関する公開情報分析で有名な『インフォルム・ナパーム』は、戦死した兵士に贈られる勲章のシリアルナンバーから判断するに、ロシア軍の戦死者は最初の1週間だけで4800人近くに上っていた可能性を指摘しています(https://informnapalm.org/en/medal-count-osint-analysis-of-real-russian-losses-for-the-first-week-of-hostilities-in-ukraine/)。  ただし、米国防総省によると、ロシア軍はアゾフ海に臨む要衝マリウポリの市内にまで侵入しているほか、東部のドンバス地方でも活動を活発化させているとのことです。また、ウクライナも占領地域を大幅に奪還できるほどの大攻勢に出られているわけではありません。3月28日はウクライナ軍が北東部のスムィでロシア軍の大隊戦術グループ(BTG)を撤退させたとされていますが、米戦争研究所(ISW)は再編成のための撤退であったとしています(それでもBTGを丸ごと撤退させるのはこれが初めてのようですが)。  全体として言えば、戦況は一進一退で、どちらも決め手を欠く状況が続いているということになるでしょう。 ・西側の圧力は強まるが…

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  • ロシアは今、世界情勢の中で台風の目になりつつあります。 ウクライナやシリアへの軍事介入、米国大統領選への干渉、英国での化学兵器攻撃など、ロシアのことをニュースで目にしない日はないと言ってもよくなりました。 そのロシアが何を考えているのか、世界をどうしようとしているのかについて、軍事と安全保障を切り口に考えていくメルマガです。 読者からの質問コーナーに加えて毎週のロシア軍事情勢ニュースも配信します。
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