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河東哲夫氏:プーチンの暴走を止めるために何ができるかを考えた[マル激!メールマガジン]

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マル激!メールマガジン 2022年3月30日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1094回) プーチンの暴走を止めるために何ができるかを考えた ゲスト:河東哲夫氏(元外交官、元駐ウズベキスタン大使) ──────────────────────────────────────  ロシアによるウクライナへの武力侵攻が続いている。  武力によって他国の主権を侵し、多くの一般市民にまで多大な犠牲を強いる蛮行に、正当化の余地は一切ない。あらゆる国際法、人道法の違反であり、ロシア軍はただちにウクライナから撤退すべきであることは言うまでもない。  しかし、一旦武力衝突が始まってしまった以上、一刻も早い停戦を実現し、和平への道を探らなければ、一般市民への被害は増え続ける一方だ。戦争を終わらせるために今、何が必要なのかを考え、それぞれの国がその実現のためにできることをやるしかない。  今回のロシアによる武力侵攻は多くの専門家が予想し得なかった。なぜならば、武力行使によってロシアが得られるものは何もないと誰もが考えたからだ。元外交官にして独自の視点からロシア情勢をウォッチし続けている河東哲夫氏は、今回プーチンには致命的な誤算がいくつもあったと指摘する。まずプーチンは、そもそもウクライナ軍にこれだけの反撃能力や戦闘能力があるとは考えていなかった。クリミアの併合を容易に実現したことで、今回もそれほど難儀せずにウクライナを屈服させることができるとプーチンが見ていても不思議はなかった。 その結果、仮にアメリカを始めとする西側諸国が経済制裁を科してきたとしても、短期決戦の軍事的勝利から得るものの方が、制裁などによって失うものよりも大きいと考えていたというのだ。  しかし、2014年のクリミア併合の際は弱くてまったくロシア軍の相手にもならなかったウクライナ軍が劇的に増強され、兵士の士気や規律もまったく別の軍隊のように強化されていた。ロシアは全陸上部隊の約半分にあたる20万もの兵員をウクライナ侵攻に注ぎ込みながら、予想外の苦戦を強いられ、方々で立ち往生しているというのが実情のようだ。 しかも、ウクライナ軍を甘くみて複数のルートから同時に侵攻を開始したことで、兵力が分散し、兵站が伸びてしまったことも災いしたとの指摘がある。  またプーチンにとってもう一つの大きな誤算は、NATOの加盟国ではないウクライナへの侵攻の結果、国際社会がここまで連帯して大規模な制裁を科してくるとは予想していなかったことだと河東氏は言う。2008年のジョージアへの軍事侵攻や2014年のクリミア併合とウクライナ東部2州への軍事侵攻の際も、西側諸国はここまで厳しい制裁は科してこなかった。 プーチンは制裁の規模や軍事侵攻に対する国際社会の嫌悪感の強さを、明らかに過小評価していた。要するに、数々の誤算が重なった結果、プーチンとしても引くに引けない状況に陥っているというのが実情のようなのだ。  河東氏は和平への道のりは容易ではないことを指摘した上で、あり得るシナリオとしてゼレンスキー大統領が語った「国民投票による決着」は可能性としては無くはないと語る。東部2州の独立やクリミアの併合の是非を、直接国民に問うというのだ。 しかし、侵攻によってこれだけの被害を被ったウクライナ国民が、国民投票でロシアの2条件の受け入れを容認することも考えにくい。結局、戦争が長期化・泥沼化し、制裁によってロシアが徐々に弱体化していく中で、どこかのタイミングでウクライナの占領を維持できなくなるか、もしくはプーチンがロシア国民やロシアの財閥や権力者たちから見切りをつけられ失脚するまで、ゲリラ戦が続くという最悪のシナリオも考えられる。そしてその間、ウクライナの市民の被害は増え続け、国土は焦土と化すことになる。  1990年に米ブッシュ政権内でロシア(1991年まではソ連)を包摂すべきか敵対すべきかをめぐる意見対立があったものの、最終的にはアメリカはロシアをあくまで脅威と見做し、これと敵対しながら弱体化させていくという、冷戦時代の囲い込み政策の継続を選択した。 そして、実際にロシアは弱体化の一途を辿り、遂に壁際まで追い詰められた結果、ついに今回のような暴挙に出てしまったと見ることができる。無論、だからといって今回のロシアの軍事行動が正当化できるわけがない。しかし、ロシアの立場や今回の蛮行の背景を理解した上で、解決策を模索しない限り、和平の実現は困難だろう。  今回はプーチンが無理筋の武力行使に踏み切った背景やプーチンが大いなる誤算に陥った理由などを河東氏に聞いた上で、戦争を終わらせるためにどのようなシナリオがあり得るのかなどを、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・ウクライナ侵攻におけるプーチンの誤算 ・戦争に至った西側とウクライナの事情とは ・日本が他国の侵攻を受けないために、何をすべきか ・「国のために命をかける」ことを称賛する愚かしさ +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ウクライナ侵攻におけるプーチンの誤算 神保: 今回はウクライナ情勢について、歴史的な経緯も踏まえて一度整理しようと考えています。情報は巷に溢れていますが、相変わらず一辺倒な感じで、大丈夫かなというところもありまして。宮台さん、冒頭に何かあれば。 宮台: テレビというのは基本的にスポンサーがいて、視聴率を稼ぐというものです。そして、BBCのような専門的なリサーチャーを間に挟んでいるわけではないので、頭の悪い人が作っていると断定していい。妥当なコメントができるはずのない人が呼ばれ、それが多くの人にとって最も重要な情報のソースになってしまいがちなことに問題がありますが、しかしいまはインターネットの世界ですから、自分の価値観を横に置いて、インターネットを通じてさまざまな視座の議論を目にしてほしいと思います。

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