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【Vol.425】冷泉彰彦のプリンストン通信『ウクライナ情勢と北方外交』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「日本政府の「在外邦人」保護政策は、これでいいのか?」  4月初旬に林芳正外相は、ベルギーでの「NATO+G7」外相会談に出 席、ウクライナ問題を話し合った後に、ポーランドを訪問しました。その際 に「ウクライナ避難民を政府専用機で日本に救出する」というアクションと なったのですが、ここで驚くべきことが起きました。  それは「専用機の搭乗はウクライナ人の難民」が対象だから、「日本国籍 者は拒否する」という運用です。  何が驚きかというと、これまで、日本の、特に外務当局は「在外邦人」の 保護には猛烈な関心を払ってきました。その態度とは180度違う対応だっ たからです。  とにかく、この間の日本政府は、「在外邦人」を保護するために、各国の 在外公館によって「居留邦人の確認」を徹底するようになりました。また、 例えば、危険な地域には「入国を控えるように」というアナウンスを何度も 出すなど、色々な努力をしていたのです。危険地域における邦人の保護と救 出のために、自衛隊を出すとか、自衛隊機を飛ばせるように制度の改正も行 われました。  一つのきっかけとなったのは、2015年の2月に発生したシリア領内に おける日本人2名の人質殺害事件です。この事件は、日本だけでなく国際社 会に衝撃を与え、事件の結果を重く見た日本政府は、改めて「在外邦人」の 保護に関する体制の見直しを行ったのでした。  こうした制度の見直しを経て、在外邦人の間には、 「とにかく自分達の安全について、日本政府が大きな関心を払ってくれるの は有り難い」 「ただ、例えば配偶者が日本人でない場合とか、現地雇用の現地人だが日系 企業などに貢献しており救済対象にしたい人など、日本人以外にも救済対象 を拡大できないか?」 「日本側が海外の心配をしてくれるのは有り難いが、災害大国である日本で、 どんな災害があり、例えば自分の家族が安全に避難したかなどの安否情報が わかる仕組みが欲しい」  といった声があり、私もその都度、現地のメディアなどでそうした声を代 弁してきたのも事実です。  ですが、今回の「政府専用機への日本国籍者の搭乗拒否」に加えて、新型 コロナ関連での「書類不備者の場合は、日本国籍者も入国を拒否して出発地 に送還」といった措置のニュースを加えると、何か全てが「逆方向に動いて いる」のを感じます。  勿論、そこに悪意があるとは思いません。岸田政権が、安倍政権の保守色 を嫌って中道色を出すために「自国民中心主義を否定」して、そのような判 断をしているとも思えません。  そうではなくて、恐らくは「規則に縛られた猛烈な杓子定規」があり、現 場には「判断の禁止された権限のない人」しか配置されていないという制度 上の問題があるのだと思います。誰かの悪意ではないし、政党や政治勢力に よる悪意でもないが、システムそのものが悪意を持たされている、そうとし か言えない感じがします。  改めて、関係官庁には、戦争や伝染病といった地球規模の災厄に対して、 日本人を、それもできるだけ広い定義での日本人とその関係者、日本の国益 に資する人について、しっかりと包摂して救援するような運用をお願いした い思うのです。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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