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Vol.426】冷泉彰彦のプリンストン通信『アメリカのロシア政策、ミスばかりの30年

冷泉彰彦のプリンストン通信
「縮小経済が自由競争を壊す」  クラシックな経済学の立場からすると、商品の需要があればそこにカネを 払う用意が生まれます。そのカネを欲しい供給側は、商品を用意して需要に 見合った価格で売ろうとします。もちろん、供給側はできるだけ高く売ろう としますし、需要(消費者など)の側は安く買いたいわけです。  ですが、そこに自由な競争が生まれれば、自然に価格が形成されてモノは 自然に売れていくはずです。ニーズがどんどん大きくなれば、工場のライン を増やしたりして増産するし、それでも足りなければ自然に価格は上昇しま す。  ですから、基本的には社会主義国でもない限りは、価格というのは自由で あるべきです。もちろん、人の命に関わる医療とか、安全を疎かにしてはい けない交通機関などの値段は、安すぎては全体が破綻するので、一定の規制 があります。これはアメリカやEUなどでもそうです。  ですが、趣味嗜好品などの値段、文化活動に関する価格などは、別に高す ぎても安すぎても社会秩序が乱される訳ではないし、そもそも人の命には関 係ないので、価格は基本的に自由。これが自由経済圏の常識で、アメリカで も中国でもそうなっていると思います。  ところが、現在の日本では、この自由経済のメカニズムが上手く作動して いません。  2つのケースがあるように思います。  1つは転売ヤーの問題です。  例えば、人気のガンプラとか、アイドルグループのコンサートチケットな どの場合ですが、ここに転売ヤーが登場すると大変なことになる訳です。ま ずガンプラの場合は、定価で買おうと思っても発売直後に転売ヤーが買い占 めてしまうので、買えないという問題が起きます。チケットも規制しないと 同じことになります。  では、そんなにニーズがあるのなら価格も自由にして、仮に市場原理で値 段が釣り上がったら正規の販売店や主催団体が儲かる仕組みにすればいい、 経済学の理屈からはそうなります。  ですが、問題は簡単ではありません。ガンプラにしても、アイドルグルー プのコンサートにしても、カルチャーとしては富裕層のカルチャーではあり ません。基本的には、普通の庶民のカルチャーです。にもかかわらず、ガン プラもアイドルコンサートのチケットも10万円の桁の価格がついてしまう とどうでしょう?まず、一般のファンは怒るでしょうし、そうなるとブラン ドイメージも崩壊してしまいます。  例えばオペラや歌舞伎のチケットの場合は、基本的に富裕層のカルチャー ですから、自由経済の論理で価格が決まっていって、歌舞伎なら最高2万円 弱とか、オペラの外タレ公演なら10万とかいう値段で、いい具合に売れる し、クレームも来ません。  ですが、アイドルグループのライブで10万ということになって、富裕層 しか来れないということになると、これは炎上してアイドルイメージは壊れ てしまいます。そもそも、芸能人の大きな収入源であるCMでのタレント価 値が崩れては元もこもありません。じゃあ、ライブなど止めればというと、 やはりマーケティング場はコアのファンに向けて必要なイベントになる訳で す。  例えば、芸能人でもディナーコンサートという商品がありますが、あれは 芸能人その人のマーケットは富裕層限定ではないものの、ホテルの食事とい うパッケージが富裕層限定なので、価格と需要供給がバランスできる訳です。  では、アメリカではどうなのかというと、例えばロックコンサートのチケ ットは高いです。有名なミュージシャンだとすぐに100ドル超えになりま す。また、ソールドアウトになると、二次市場に回るので高騰(最近は規制 はありますが)します。スポーツも同じで、特にフットボールとバスケは需 要と供給がバランスしないので、価格は猛烈に高いですが、それで均衡して います。  そうなると、ロックもフットボールも富裕層だけが対象という感じになっ てしまいますが、とりあえず幅広い購買力の裾野があるので、社会的には問 題になっていません。  では、日本の場合はどうして価格でバランスできないのか、炎上してしま うのかというと、やはり急速に経済全体が衰退する一方で、それ以上のスピ ードで格差が拡大しているからだと思います。つまり、格差拡大と全体の衰 退が重なる中で、消費社会における価格形成がうまくできなくなっているの だと思います。(続く)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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