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週刊 Life is Beautiful 2022年4月26日号:NounsDAOに参加した理由

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん NounsDAO 私は昔から新しい技術に興味があり「この技術があればこんなことが出来る!」と、技術を使ったこれまでにない製品やサービスを考えるのが大好きです。科学者による新たな発見や発明、他のエンジニアが作った新たな技術を組み合わせ、さらに新たな技術を作ったり、世の中に価値をもたらす製品を作るのが、私のようなエンジニアの仕事だし、楽しみだと考えています。 パソコン、インターネット、スマートフォンが分かりやすい例ですが、マウス、HTML、Rest over HTTP、React.js、Firebase などの個別の技術に関しても同様です。学生時代に作った CANDY というCADソフトは、マウスを初めて見た時に「これがあれば、CADがパソコンで動かせる!」と思いついた結果のものです。 そんな中で、ブロックチェーンは珍しく「悩ましい存在」です。Satoshi Nakamoto氏が書いた論文を読んだ時には、「何と素晴らしい技術だ!」と心底感動はしましたが、そこから思いつくアイデアは、「安価な海外送金」ぐらいでした。 巷で話題になった「ビットコインでものが買える時代」は、大半の人がどこかの国の法定通貨(円やドル)で収入を得て税金を収めている限り来るはずはないし、「凄い技術の割には応用範囲が限られている」という印象でした。 とは言え、これだけ面白いイノベーションが起こっているのに何もしないのはもったいないので、少しだけ Bitcoin と Ethereum を購入してみました(2019年ごろ)。しかし、あまりにも値段の上下が激しく、気になって値段を毎日のようにチェックしている時間がもったいないので、一度すべて売却してしまいました。 当時ブームだった、ICOが詐欺だらけだったこともあり(参照:ガクトとスピンドル事件)、暗号通貨業界全体に嫌なイメージを持ったという面もあります。ブロックチェーンという技術自体は素晴らしいのですが、ブロックチェーンには「金融イノベーション」という側面もあるため、純粋な技術者よりも先に「欲にまみれた人々」が大量に集まってしまったのです(ここが、暗号通貨がこれまでの技術と根本的に異なる点です)。 そのころは Ethereum が800ドルぐらいだったので(今は3000ドル)、それを持ち続けていれば4倍近くになっていた計算になります。そう考えれば、ずいぶん損をしたようにも思えますが、同じ頃に購入した Tesla の株は10倍以上になっているので、結果オーライです。 そんな経緯もあり、暗号通貨からは少し離れていたのですが、最近になり、さすがに(ブロックチェーンをベースにしたイノベーションを総称した) Web3の動きが無視できなくなって来たので、Ethereum 上でスマートコントラクト(Ethereum ブロックチェーン上で動くアプリケーション)を記述する Solidity の勉強を開始したり、NFTを活用した "Earn to Play" ゲームについて勉強をしたりして来ました。 相変わらず「いかがわしいもの」も数多くありますが("Earn to Play" ゲームが典型的な例です)、その中に二つほど「社会に価値をもたらすもの」が生まれ始めていることが分かりました。 一つ目は、デジタルアーツのNFTで、これは、デジタルアーツの「コピーが簡単に出来てしまう」という欠点をブロックチェーンによって補い、希少性を持たせて収集・投資・投機の対象にする誰でも手軽にオークションに参加出来るようにする一度アーティストの手を離れた後も、売買のたびにロイヤリティが入り続けるように設計する ことを可能にしたという点で画期的な発明です。 「NFTのおかげでアートで食っていけるようになったアーティスト」が次々に生まれていることは素晴らしいことだと思います。私の子供がアーティストであれば、作品をNFT化して販売することを強く勧めるし、アート系の学校でも、NFT市場に関しての授業を必須科目にすべき重要なイノベーションです。 とは言え、私自身がデジタルアーツのNFTに関わる必要はないと感じています。私自身がアーティストでもないし、アートのコレクターでもないからです。アートNFT市場は既に非常に投機的になっており、そんな市場に手を出して一喜一憂するほど暇ではありません。もし私が関わるとすれば、アートNFT市場を作り出す側・大きくする側に立つだろうと思います。 二つ目は、DAOです。DAOは "Decentralized Autonomous Organization" の略で、ひとこと言えば、取締役会とか経営陣などが存在せず、プログラム(スマートコントラクト)によって自律的に運営される組織のことです。"Autonoumous" は「自律」と訳されることが多いのですが、(人間の代わりにマシンが運転する)自動運転車が英語だと "Autonoumous Car"になることを考えれば、DAOは(人間の代わりにマシンが経営する)「自動運転組織」と考えていただいても良いと思います。 株式会社は、株主のものですが、株主全員で経営することは出来ないので、社長を筆頭に経営陣を雇い、経営を任せます。経営陣の役割は、会社の経営を通して株主価値を最大にすることにありますが、残念なことに経営陣自身にも「たくさん給料をもらいたい」「今の地位に長くとどまりたい」「引退後に天下り先が欲しい」などの欲があるため、必ずしも株主の利益を最優先に働いてくれないのが問題です。 国の経営もまったく同じで、政治家や役人の本来の役割は国民の利益を最優先することですが、彼らにも欲があるので、(安倍政権がしばしば行ったように)「総理のお友達」に利益を与えたり、自分たちの天下り先を税金で作ったりするのです。 これを経済学では、"agency dilemma" とか "principal-agent problem" と呼びます。"principal" が株主や国民で、"agent" が経営陣や政治家・官僚です。プリンシパルから雇われた(もしくは選ばれた)エージェントが、自らの欲のために、プリンシパルの利益に反する行動をとってしまうことを指します。ここでは「エイジェンシー問題」と呼ぶことにします。 DAOは、「エイジェンシー問題」を解決する大きなポテンシャルを持っています。人間をプログラムに置き換えることにより、「欲」を排除出来るからです。 会社であれ国であれ、エージェントの最も重要な役割は、「お金の使い方」にあります。会社であれば「研究開発費にいくら投じるのか」「広告宣伝費をいくら使うのか」、国であれば「軍事費をいくら使うのか」「少子化対策にいくら投じるのか」などの決断です。 その最も重要な部分に人(エージェント)が絡むと、必ずと言って良いほど、「経営人の天下り先の確保のために子会社を作る」「政治家のお友達の会社に大量の発注をする」「票を集めてくれる団体にお金を流す」などの行動の結果で、「お金の使い方」が(プリンシパルの観点から見て)最適化されないのです。 この「エージェンシー問題」を解決するために、賄賂や不正な利益供与を禁止する法律などがありますが、すべてのケースを網羅することは到底出来ず、たくさんの不正が合法的に行われているのが、この世の中です。 民主党の石井紘基議員は、官僚たちがコントロールする一般会計よりも大きい特別会計の闇を暴こうと奮闘した結果、何者かに雇われた刺客に刺殺されてしまいましたが、これもまさに「エージェンシー問題」の最たるものです。 DAOは、この最も重要な「お金の使い方」の部分を、スマートコントラクトというプログラムを活用して自動化し、不正の入る余地を排除しようとする試みです。

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