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治療どうする?

ドクター畑地の診察室
ドクター畑地の診察室140.2022.5.15. 現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。 世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います!おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者(肺癌、喘息、COPD、肺炎など)を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説&ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信! https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/ 三重県出身 自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる 松阪市民病院院長 診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け!radioを聴いてらんらんらん(lung lung lung)」という毎週月曜日放送の番組を担当 https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php *********************************** 治療どうする? 病気になる人は、若年者より高齢者が圧倒的に多いうえに、現在、日本において高齢者の割合が急速に上昇しています。松阪市民病院呼吸器センターには、毎日いろいろな呼吸器疾患の患者さんが紹介されてくるのですが、御多分に洩れず高齢者の割合がとても高いです。紹介患者さんの約1/4から1/3が肺癌患者さんなのですが、週に10人程度の肺癌患者さんが紹介される計算です。もともと日本における肺癌の高齢者は一般的に75歳以上の肺癌患者さんを指しており、この年齢を超えると、切除不能肺癌の場合、従来はあまり積極的な治療はせずに経過観察をすることが多かったと思います。なぜなら、高齢者の肺癌患者さんに対して若年者と同じような抗癌剤を使用すると、抗癌剤による副作用が強く出て、投与前よりも元気がなくなってしまうことや、場合によっては命に関わるような副作用が出現することもあるからです。 ところが近年、多くの分子標的薬が上市され、種類によりけりなのですが従来の抗癌剤の治療より副作用が非常に少なく、なにより効果も非常に高く、高齢者でも十分治療に耐えることができる良い治療が提供可能となりました。 そんなある日、私の診察に呼吸困難が主訴で92歳の女性が遠方に住んでいる息子と一緒にやってきました。胸部のCTを撮影してみると、右肺に大きな腫瘍があり胸水も貯留していました。左肺には多発性肺腫瘍を認め、右肺癌、右癌性胸膜炎、多発性肺転移の状況でした。患者さんに喫煙歴を尋ねると“全くタバコを吸ったことがない”とのことだったので、検査を施行すると半分以上の確率でドライバー遺伝子が見つかり、分子標的薬を内服するとかなりの確率で良くなる可能性が高い状況です。 ただ息子さんが言うには、1人暮らしで人里離れた地区に在住しており、通院はとても困難とのことでした。高齢者でも、分子標的薬はそれほど副作用が無く、非常に効果的な薬であるので、積極的に肺癌治療に用いられます。しかし、内服開始時期の7日から10日を除いては、ずっと入院で治療するわけではなく、外来での治療が主となります。特に内服開始2か月程度は“肺炎”の副作用が出現することもあり、こまめな通院・検査が必要不可欠です。 私は息子さんに言いました。“1人暮らしで通院が困難な状況で治療することは不可能です。もしも、息子さんが生活のバックアップに入ってあげることができ、こまめな通院も可能であるならば治療はさせていただきますが、今、元気がない状況で家族のバックアップもなく、ヘルパーさんだけに介護を委ねて癌の治療は行うことができません”自分で服薬管理や身の回りのこともできる状況で、元気であるならばもちろん高齢者でも癌治療はできるのですが、元気がない高齢者に対していくら家族が強く治療を希望したとしても、いくら分子標的薬が効果的な状況であっても週に数回訪問してくれるヘルパーさんだけに委ねて治療することは難しいです。 どのような方向を選択するのか本人だけでは意思決定が難しくなった時、家族が強く治療を希望したとしても“施設やヘルパーさん任せ”というのは、やはり癌を治療していく上では非常に難しいことです。

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