■■ 2022/05/18 ■■
兵頭正俊の優しさ出前
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経済制裁の効力と無力 (その1)
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わかりきったことだが、世界はアメリカの私物ではない
し、まして家族でもない。アメリカの思うとおりに、期
待したとおりに動かなかったからといっていちいち制裁
を受ける根拠などないのである。
「制裁が譲歩につながるのはせいぜい3分の1から2分の
1程度」ということだ。それでもアメリカは制裁に固執
する。その理由は次の3点だとダニエル・W・ドレズナ
ーはいう。
1 アメリカの衰退
2 アメリカの軍事力と外交的影響力は相対的に縮小。
「貿易をボイコットされた国はそう遠くない未来に降伏
する」(ウッドロー・ウィルソン大統領)
3 制裁は、管理された環境で効果を発揮する特別な手段
簡単に経済制裁というが、そんな単純なものではない。
これはもちろん政治的制裁であり、時には軍事的制裁で
ある。さらに人権的制裁になるから恐ろしい。
だから「バラク・オバマは1期目に、人権侵害、核拡
散、領土主権の侵害などの理由で、平均すると年間約
500の国・地域・組織を制裁対象に指定した」。
制裁の主体はアメリカであり、それ以外ではどの国も制
裁できない。というか制裁しようとも思わないだろう。
実際、アメリカは制裁好きだが、アメリカには制裁され
るべき多くの案件がある。アメリカが戦争をやらなかっ
た年月はすぐ探せる。ほとんど戦争の連続の歴史だから
だ。
制裁が譲歩につながるのはせいぜい3分の1から2分の1
程度ということだ。
財務省、国務省、商務省の政府関係者は「アメリカの広
範な政策目標を達成するための制裁の効果について、省
としての分析を出していない」ということだ。分析する
のが怖いのだろう。
ワシントンが制裁に固執する理由を考えるのは、さらに
怖い。
1 アメリカの衰退が最大の要因。
2 アメリカの軍事力と外交的影響力は相対的に低下。
3 アメリカのパワーは衰退途上にある。
4 苛立つ米大統領は、利用できる手段も少なくなり、制
裁という手軽なツールに手を出す。
しかし、制裁という方法はマイナス面も孕んでいる。
1 制裁にはコストがかかる。
2 同盟国との関係を緊張させ、敵国との関係をさらに悪
化させる。
3 関係のない民間人に経済的困難を強いる。
4 さらに悪いことに、このツールは着実に効果を失いつ
つある。
5 アメリカの制裁は、中ロが対象国家・組織の救済に乗
り出す。
6 同盟国やパートナーが経済的圧力をかけることに疲弊
していく。
7 効果なきアメリカの制裁はドルの弱体化を招き、米ド
ルはグローバル金融の中心から離れていく。ドルの支配
的地位に依存した制裁の効果も低下していく。
8 アメリカは経済制裁をかけるときに、その要求を最大
限にエスカレートさせてしまう。北朝鮮には非核化、イ
ランには非核化プラスアルファ、ベネズエラにはボリバ
ル主義の放棄という具合に体制変革に等しい大きな難題
を投げかける。そうした国は、「大規模な譲歩をする代
わりに、経済的な痛みに耐えることを選択」する。
9 制裁は人道主義的コストも伴う。「制裁が対象国の民
衆にダメージを与えること」に限っては専門家の見解の
相違はない。金融制裁であっても、抑圧、汚職、人間開
発指標の悪化などを引き起こす。
経済制裁という方法自体がとても傲慢なやり口だ。これ
は個人の場合を考えるとよくわかる。自分と考えが違う
からといって制裁する人間などいない。
経済的制裁は、相手国が制裁下での生活にいかに適応す
るかを学び、強化する側面がある。中国やロシアのよう
な大国なら、別の貿易相手をみつける。
米国の凋落をもっとも具象的に象徴しているのはドルの
価値下落だ。
金融制裁が多用される状況が数十年続いたため、制裁対
象国は強制から身を守るために、米ドル以外の決済シス
テム、デジタル通貨システムを、中国人民銀行のデジタ
ル人民元を模索するようになった。米ドルが世界の主要
準備通貨であることに変わりはない。だが、国際決済通
貨としての利用がさらに低下すれば、アメリカの金融国
家としてのパワーも低下する。
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