今回は、2011年にオランダで開催されたアヴェロエスの自然哲学についての国際会議で発表したきりで、忙しさのあまりに論文化しなかった原稿を、11年の時空を超えて発掘できましたので、その邦訳版をお送りします。難しい「形相」の概念がでてくる話で恐縮なのですが、占星術の基礎的な考えに関連し、はてはアヴェロエスによるプラトンやイスラム教の批判にまでおよぶ議論となっています。
「アヴェロエスの形成力:ガレノス、アヴィセンナ、アヴェンパチェ」
1. はじめに
多様な自然現象を説明する「形成力」の概念は、西欧の知の歴史において重要な役割を担ってきた。その起源は、古代ギリシアの医学者ガレノス(Galenos, 129-216)によって提唱された発生論的な考えにまでさかのぼることができる。ラテン語型の virtus formativa は、アルベルトゥス・マグヌス(Albertus Magnus, 1200-1280)らの中世の知識人たちの発生論でしばしば使用されている。
初期近代では、ヘンリー・モア(Henry More, 1614-1687)やラルフ・カドワース(Ralph Cudworth, 1617-1688)らのケンブリッジ・プラトン主義者たちの著作に見出せるように、「形成的な自然」plastic nature という名称で世界の成立ちを説明する形而上学的な原理となる。哲学者ライプニッツ(Leibniz, 1646-1716)もこの原理に強い関心をよせた。
ルネサンス期における形成力についての議論では、アヴェロエスの考えが重要な役割を演じている。たしかにアヴェロエスは、『医学概論』Colliget やアリストテレス注解書、そのほかの哲学的な著作で形成力に言及している。本稿では、アヴェロエスの考えとその源泉を分析することにしたい。
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