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小島美里氏:超高齢社会の介護問題を参院選の争点にしないでどうする[マル激!メールマガジン]

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マル激!メールマガジン 2022年6月1日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1103回) 超高齢社会の介護問題を参院選の争点にしないでどうする ゲスト:小島美里氏(NPO法人暮らしネット・えん代表理事) ──────────────────────────────────────  7月10日に投開票が予定される参議院議員選挙まで、残すところ一月あまりとなった。  アンケートなどを見ると、有権者の関心事としては必ず社会保障があげられているが、残念ながら現時点では選挙の大きな争点となっていないようだ。一方で、政府内部では2024年度の医療・介護報酬同時改定に向けてさまざまな制度改革の議論が既に始まっている。  医療・介護は市民の生活に深く関わる問題だが、これまでの改革は、政府の経済財政諮問会議や審議会で提案された後、十分に議論されることのないまま制度変更が繰り返されてきた。今回も、5月25日の財政審では、介護分野の利用抑制と効率化を前提とした制度の見直しが提案されている。  2年間にわたるコロナ禍は、介護保険制度の問題点を露わにした。もともとあった人材不足はさらに加速し、小規模な介護事業所のなかには経営が立ち行かなくなるところも出てきている。介護従事者は医療従事者と同じエッセンシャルワーカーであるにもかかわらず、医療と比べてワクチン接種やPCR検査などの介護現場への対応は遅れた。 第6波では介護施設で多くのクラスターが発生したが、在宅に取り残されたコロナ陽性の高齢者に対して行った訪問介護に対しては、なんの保障もされなかった。  一方、介護保険の現状は、総費用、保険料ともに当初の予測よりもはるかに速いペースで増え続けている。総費用は2000年の3.6兆円から2022年度予算では4倍の13兆円あまりまで膨れあがり、65歳以上が負担する保険料の月額は全国平均で2,911円から6,014円と2倍になっておりすでに限界に近付いているのが実情だ。  こうした事態を受けて、政府内では軽度の要介護者を介護保険サービスの対象から外すことや、現行で1割となっている利用者負担の増額などが提案されている。これらは制度の持続可能性からの発想ではあるが、それ以前の問題として、高齢者の暮らしを支え続けるためには何が必要かを考えるのが先ではないかと、埼玉県新座市の介護事業所「暮らしネット・えん」代表理事の小島美里氏は指摘する。 このままでは、いざサービスを利用する段階になって必要なサービスが提供されていなかったり、条件が合わない、負担が高すぎるなど、利用しにくい制度ができあがってしまう恐れがある。それに気づいたときには時すでに遅しという事態が十分想定されると、小島氏は危惧する。  全世代型社会保障やヤングケアラーなど、介護分野では新たな課題が表面化しているようにもみえるが、問題の根幹にあるのは、高齢者への社会保障が大きすぎることではなく、若い世代への対策が少なすぎることだ。いま注目されているヤングケアラーの問題でも、現行の制度を十分に活用できるようにすれば解決できる問題も多いと小島氏は言う。 介護問題はケアを受ける高齢者だけでなく、その子ども世代や、自らの先行きを考える働き盛り世代など、多くの人に影響を与える問題であることを、われわれは認識する必要がある。  超高齢社会をひた走る日本では、将来に向けてどのような議論が必要なのか。この問題こそ参議院議員選挙で争点にしてほしいと訴える小島美里氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・在宅介護には夢も希望もない ・低いところに合わせる「全世代型社会保障」の欺瞞 ・切り分けて考えるべき「コミュニティ」という概念 ・介護行政のデタラメに声を上げること +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■在宅介護には夢も希望もない 迫田: 本日は5月27日金曜日です。参議院選挙が近づいており、社会保障がテーマになる、という話を聞きますが、現実に投票となると、沈んでしまっている印象があります。 宮台: この20〜30年、選挙で最大の争点になるのは、どの国でも所得なんです。要するに経済成長させてくれるか、景気をよくしてくれるか、給料を上げてくれるかというところがポイントですが、少なくとも東京五輪の少し前あたりから、日本は経済指標から先進国とは言えない状況だということがわかってきた。 最低賃金は欧米の半分で、韓国には一人当たりGDPもとっくに抜かれています。この状況で現政権を頼っても、景気がよくなるとか、給料が上がるということは期待できないと思います。 経済団体の上席にいる企業への配慮から、将来の経済的な浮揚の要を握るエネルギーシフトはまったく進んでいないことを見ても、自民党が国民のためを考えて景気をよくする政党ではないということが明らかになっているなかで、それでも国民はまだ自民党を支持するのか。国民がちゃんと目を覚ますか、というのが僕の興味です。 迫田: そうしたことも踏まえて、自分たちの暮らしの実態はどうなっていて、この先、どういう制度を考えなければならないのか。今回は20年先、30年先のことを考えた議論をしたく、介護の分野にフォーカスしようと考えているのですが、なぜいまこんな制度になっていて、先のことを誰がどういうふうに考えているのか、ということがわかりません。 宮台: それは日本が民主主義ではないからです。基本的に、行政官僚制を頂点とする権威主義であり、役人たちは無謬性の原則に基づいて、自分たちのプラットフォームをひたすら維持しようとする。だから、合理的な制度改革が生じようがなく、さてどうするかと。 迫田: そうですね。今回は、実際に介護の現場から発信されています、NPO法人暮らしネット・えん代表理事の小島美里さんにお越しいただきました。

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