松尾スズキの【のっぴきならない日常】vol.517（２／２）

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ / ２０２２年６月３日発行 /Ｖｏｌ．５１７（２／２） ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 「人生に座右の銘はいらない」 読者からの相談や質問に松尾スズキが独自の視点でお答えします！ Ｑ．松尾さんの人生は、２０歳のときの自分が描いた人生とどれくらい違いますか？　私は２０歳のときに、飲食業界で働いていくと決め、３０歳で自分の店を持ち、４０歳でチェーン展開して、５０歳でセミリタイアするつもりでした。ですが現在４８歳、まだ雇われのイチ店員でしかないです。しかも役職もありません。たぶん、３０歳の手前で、働いていた和食のお店が潰れ、結婚直前だったのでイタリアンのチェーンに慌てて転職したのが選択ミスだった気がします。松尾さんの人生の岐路の話を伺ってみたいです。（４８歳、男性、飲食） Ａ．ハタチの頃は、漫画家かグラフィックデザイナーになれるのかな……と考えていました。大学で、そういう勉強をしていたからです。世はイラストレーターとコピーライターが脚光を浴びる、そんな時代でした。自分も、なんとかその波に混ざれないかと頭の中だけで画策していたわけです。その時のポスターカラーで描いていた作品が、今も我が家のクリアファイルにありますが、よくこんなものでどうにかなると思っていたな、というような代物です。でも、漫画家になる夢を捨てきれず、ケント紙に向かって、出版社の懸賞用の原稿をシコシコ描いてもいました。 しかし３０歳、４０歳になった頃、おのれがどうこう、などというビジョンは全く持っていませんでした。ましてや自分が今、俳優としても飯を食っているなんて驚きしかありません。失職したあと、２６歳で劇団を作ったのが、すべての転換期だったのは間違いありません。しかし、５０歳でセミリタイアは早すぎるでしょう。わたしだって、もはやバリバリ働きたいという気持ちはありませんが、おそらく７０歳くらいまでは、なんとなく働いているでしょう。しかし、あと１０年で７０歳という歳になるのだと思うと戦慄を覚えるばかりです。 Ｑ．営業マンなんですが、成績がふるわないので歯の矯正をしようかと悩んでいます。正直、第一印象が良いタイプではない（よく「怖い」「無愛想」と言われます）ので、効果はあると思うのですが、ぶっちゃけ貯金をはたいて６０万円は高いな、とも……。松尾さんは、よく歯医者に行かれてますし、なによりお顔が商売の世界で仕事をされていますが、歯並びって、どれくらい重要なんでしょうか？（２９歳、男性、会社員） Ａ．あの宮藤がシーバスリーガルの顔なわけですから、本質的な部分がちゃんと認められれば、歯並びなぞ関係ないのかもしれません。ましてや、歯並びと愛想は別問題ではないでしょうか。わたしは比較的歯並びは良いほうですが、就職活動では「君、根暗でしょう」と指摘されるほど目付きが悪く、「ああ、二重に生まれればよかった」と真剣に落ち込んだものです。眉毛と目の間のスペースに気をつけてみてください。そのスペースに愛嬌が宿るとわたしは睨んでいます。人に会うとき、できるだけ眉毛を上げ気味にするだけで、顔の印象って変わるもので、わたしは、写真撮影の時は意図的にその愛嬌スペースを広めにするよう気をつけています。我ながらいやらしいなと思いますが、やらないよりはやったほうがいいようです。 Ｑ．コロナ以降、在宅勤務になって２年になるのですが、いまだにオンとオフのつけかたがうまくいきません。とくに、ついついＳＮＳとスマホゲームに逃げてしまいます。最低限の仕事はしているので怒られるようなことはないのですが、正直、仕事人としては停滞というか足踏み状態です。松尾さんはコロナ以前から在宅仕事も多かったと思うのですが、なにかオンオフをつけるコツなど、あるのでしょうか？　こっそり教えていただけると嬉しいです。（３１歳、女性、会社員） Ａ．仕事とＹｏｕＴｕｂｅ視聴と、ゲーム、Ｕ－ＮＥＸＴ、ただで観られる系の短めのＡＶ動画、そういうものが渾然一体となりながら部屋にいます。このままでは次の新作に取りかかれません。だからホテルに宿泊してみようと思います。ただ、ホテルに行ったとて、これらのものは同じパソコンから観れてしまうというのが目下の悩みです。ただ、この日記や単発のコラム仕事などは、逃げずに一気にやれます。気合です。長い仕事も、その延長と思いこめば気合で乗り切れるのかもしれません。次の新作は、短いコラムの連作、と思い込みながらチャレンジしてみます。ありがとうございます。