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【Vol.433】冷泉彰彦のプリンストン通信『外交どころではないバイデン』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「疑問だらけの線状降水帯予報」  6月1日から気象庁は、「九州北部」などといった広域圏を対象として 「線状降水帯」が出現する可能性がある場合に、その予報をすることになり ました。以前お話したように、予報できるのなら「6月1日」などとキリの 良い日を待つことなく、即時実施すればいいのにと思っていました。実際に 5月中にはそのような豪雨は沖縄で発生していたので、可能であれば予報と して出しても良かったのだと思います。  ところで、線状降水帯の予報に関しては、「当たる」つまり予報を出して も「実際に出現する」可能性がまだ未知数だという問題が指摘されています。 ですが、この種の議論はほとんど意味がないと思います。 「線状降水帯の予報が出たが、実際には発生しなかったので気象庁を批判す る」  というのもナンセンスですが、反対に、 「線状降水帯の予報が出ていて、実際に線状降水帯が発生した」  から「良かった」とは言えません。当たり外れの結果で、気象庁を評価す るというのは全く重要な問題ではないのです。そうではなくて、問題は次の 2つの点だと思います。  1つ目は、線状降水帯の発生はピンポイントで起こるわけです。ですが数 時間前からのピンポイント予報というのは難しく、現時点では予報は、「九 州北部で線状降水帯が発生しそう」という広域を対象とした予報になります。  では、その対象となった「九州北部」では、ハザードマップで危険度の高 い地区は全員が避難することになるのかというと、そこまでは徹底できない と思います。空振りの可能性が高く、避難と空振りを繰り返していると、最 後には予報がオオカミ少年になってしまうからです。  そこで、もう少しピンポイント的に事態を把握する事が重要になってきま す。線状降水帯は、発生したら即洪水とか土砂災害というわけではありませ ん。最初の雲による豪雨から、次々に次の雲がやってきて累積の雨量が危険 なレベルに達するまで30分とか数時間といった時間があり、その間に「こ れは緊急だ」という判断をするということになると思います。  具体的には、雨雲が(多くの場合)西から東に連続して同じ地域を襲うと いうパターンが、レーダー画像で見えるわけです。これは気象庁の発表する レーダー画像でも分かりますし、ネットの民間サイトにある「雨雲レーダ ー」などでも分かります。ですから、画像から判断するようなリテラシー教 育を広めるとともに、リアルタイムでピンポイントの警報を出すシステムの 精度を上げていくことは大きな課題になると思います。この問題は待ったな しです。  2つ目は、ピンポイントの危険箇所の問題です。線状降水帯が「どこに」 被害を与えるかというと、多くの場合はその線状降水帯のために、累積の雨 量が危険なレベルに達した「その場所」になります。特に土砂災害の場合は そうですし、2014年の広島土砂災害の場合は正に線状降水帯に延々と攻 撃を受ける中で、深刻な被害が発生してしまったのでした。  問題は、危険なのは降雨の集中した「その場所」だけではないということ です。例えば、2018年の西日本豪雨の場合は、岡山県倉敷市の真備地区 でもそうですし、愛媛県の肱川流域でもそうなのですが、線状降水帯による 連続降雨が直撃したのは川の上流であって、その雨量が余りに大きかったの で川の下流で被害が出たわけです。  ということは、自分の住んでいる場所では線状降水帯が活動していなくて も、川沿いのコミュニティの場合に、その上流の流域が線状降水帯による連 続降雨に見舞われた場合は、非常に危険になるわけです。そうした災害のリ テラシーを広めつつ、こうしたケースも含めてピンポイントの避難体制を取 って行かなくてはならないと思います。  広域予報しか出せない中で、「当たる確率は」などと気象予報士が解説し ているという状況は、どう考えても甘すぎると思います。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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