■日々の小さな心がけが所作となる
生活様式が大きく変わり、あるべき紳士像も古臭いものになりつつ
ある。手紙のやりとりは時代遅れになったし、ドレスコードも変わ
ってしまったように感じられる。
それでも、ある種の真理は変わらずに残っている。紳士らしさを求
める思いも消えていない。世界が変わろうと、紳士はどう振る舞う
べきかを心得ていなければならないのだ。
既婚者でも独身でも、パーティに出席すれば、まわりの人をもてな
すべきだ。仕事の関係者には愛想よく対応しつつ、同僚ともうまく
付き合わなければならない。
そのためには、テーブルのセッティングの仕方や自己紹介の方法を
知っておくべきだ。友人同士を紹介したり、自分で蝶ネクタイを締
められるほうがいい。
★
ただ、紳士であることと、ネクタイを締めたり、ナイフやフォーク
を扱ったりすることとは本質的には関係ない。大事なことは、ささ
やかな論理、思慮深さそして他人への大きな思いやりだ。
複雑な決まりごとや入り組んだ指南はそれほど大切ではない。大事
なことは、まわりの人が気兼ねなくいられるようにすることだ。そ
して噓偽りなく、心から素敵な人物でいることだ。
素敵な人物にとって、最も気高い美徳とは、友愛、信頼性、ゆるぎ
ない誠実さだ。心構えあってのハウツーなのだ。単に紳士らしく振
る舞うだけでは足りない。大事なことは、紳士であることなのだ。
紳士であるとは、たとえば他者に配慮し、必要な時にその場にいて、
求められていない時宜をわきまえることだ。こうした紳士のあり方
は、先天的なものではない。学べば身につくものなのだ。
★
メールは日常生活の一部になった。便利だが、マナーを無視するべ
きではない。送る時は、手紙より注意が必要だ。何十人、何百人に
簡単に転送できてしまうからだ。
送信ボタンを押す前に、文面を詳細にチェックするべきだ。必要が
あれば修正するべきだ。そして、自分の言いたいことの意味とニュ
アンスが正確に伝わるように心がけることだ。
腹が立っても、怒りにまかせてメールを打つべきではない。怒った
状態で書いた文面は、送る前にひと晩寝かせたほうがいい。もう一
度読んで、考え直し、破棄する機会を設けることだ。
怒りのメールは、転送され、共有されがちだ。反対に謝罪のメール
がそうされることはめったにない。「内密に」と伝えても、内密に
扱われることはまずないと心得るべきだ。
スケジュールがタイトな時ほど、メールで日時を決めようとせず、
電話をかけるべきだ。大事なことは、メールが「届いたか」でなく、
内容が相手に伝わったかどうかなのだ。
★
ドアを通る際は、必ずうしろをちらりと見るべきだ。誰かの鼻先で
ドアを閉めてはいけない。性別は関係ない。回転ドアの場合は、さ
らに注意を払うべきだ。
一歩前に進んだら、速く動かしすぎないようにドアを押し開けるこ
とだ。そして、後ろから来る人にも気を配る。また、誰かと一緒に
ドアに入るべきではない。他の人のスペースを尊重するべきだ。
荷物を運ぶのが大変そうな人がいたら、その人より先にドアに近づ
くことだ。ドアが重ければ、何も言わず手を貸し、お礼の言葉を待
たずに立ち去ることだ。
助けを必要とする高齢者や身体の不自由な人に配慮すべきだ。手伝
いを申し出て「お願いします」と言われたら手を貸す。断られたら、
離れたところから見守ればいい。
雨の日には、水たまりを超える人に手を差し伸べることだ。また傘
は常備し、持っていない人がいたら入れてあげるべきだ。こうした
気遣いや小さな心掛けが所作として身についていくのだ。
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