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「ジョルダーノ・ブルーノ、普遍生命、そして生きた粒子」(前半)

BHのココロ
  • 2022/07/02
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今回は、6月初旬にチェコのオロムス大学で、ジョルダーノ・ブルーノ専門家で宗教哲学史家リチャード・ブルムの主宰で開催された国際会議『ルネサンスの汎神論と汎心論』で発表した入魂論文の邦訳版(前半)をお送りします。この会議から Intellectual History Review 誌での特集号が予定されており、この論文も審査のうえで掲載される予定です。陽の目をみるのは、来年になると思います。 「ジョルダーノ・ブルーノ、普遍生命、そして生きた粒子」 はじめに  汎心論についての近年の概説書で、イタリアの哲学者ジョルダーノ・ブルーノ(Giordano Bruno, 1548-1600) は「ルネサンス期のもっとも偉大な汎心論者のひとり」だとされる。この評価が正しいかという問題は脇において、本稿では汎心論と同一ではないがそれに深く関与している彼の普遍生命論をとりあつかう。普遍生命という語で、1)宇宙に存在するすべては生命を宿しており、2)宇宙そのものも何らかの生命原理によって賦活されていると考えるという世界観を、ここでは指すことにする。  普遍生命論そのものは、非常にながい歴史を持っている。西洋の伝統では、しばしば宇宙の生命原理は「世界霊魂」anima mundi の学説によって称揚されてきた。この学説は、プラトンの対話篇『ティマイオス』の神話的な言説のなかで象徴的に描きだされ、今日までつづく幾世代もの知識人たちを魅了してきた。  プラトン主義の復活とともに、ルネサンス期のヨーロッパは、この学説をあつかう著作物の顕著な増加を経験し、この悠久のテーマ史上でもっとも印象的な時代を体現した。この時期の特筆すべき著者のなかで、フィレンツェの哲学者マルシリオ・フィチーノ(Marsilio Ficino, 1433-1499)は、プラトン主義の復活と世界霊魂の学説の促進において決定的な役割を演じた。彼の足跡をたどって、ブルーノも自身の哲学体系の核心にこの学説をすえている。  しかしブルーノの哲学におけるもっとも驚くべき特徴は、普遍生命論と原子論の融合だろう。この点は、世界霊魂説の全史においても特筆に値する。いかなる生気論的な傾向からも距離をおく原子論は、さまざまな自然現象を説明するうえで機械論的な性向が知られている。すべての原子は同一の物質的な基体を共有するが、形状と大きさだけが異なる無数の種類に区別されると考えられた。多様な方向と軌跡、速度で動きながら、それぞれの原子はたがいの無秩序な衝突と集合によってすべての自然現象を説明するという。 なるほど古代ローマの詩人ルクレティウスによる有名な韻文作『事物の本性について』は、ブルーノにとっての原子論についての重要な典拠だっただろう。しかしながら、この詩人やそのほかの原子論者の著作のなかに、原子論と普遍生命論の大胆な結合についてのヒントを見出すことは難しい。  この点こそが本稿であつかう問題となる。以下では、まず世界霊魂や普遍生命、そして生きている原子あるいは粒子についてのブルーノの言説を要約する。つづいて普遍生命論と原子論の結合についての彼の同時代人による、ふたつの潜在的な源泉を分析する。

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