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佐々木俊尚の未来地図レポート 2022.7.4 Vol.711
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【今週のコンテンツ】
特集
ベーシックキャピタルはベーシックインカムに「参加」の意味を与える
〜〜ベーシックインカムに潜む「倫理」の問題を乗り越えるために
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
ベーシックキャピタルはベーシックインカムに「参加」の意味を与える
〜〜ベーシックインカムに潜む「倫理」の問題を乗り越えるために
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ノーベル賞受賞経済学者のジョゼフ・スティグリッツが提唱している「ユニバーサル・ベーシックキャピタル」をご存じでしょうか。クーリエジャポンの有料記事ですが、著名投資家のレイ・ダリオとのこの対談で触れられています。
★【対談】スティグリッツ×レイ・ダリオ「政府はいまこそベーシック・キャピタルに目を向けるべきだ」 | 企業を税金で救うだけではなく、納税者にリターンを
https://courrier.jp/news/archives/206333/
ベーシックキャピタルを説明するためには、まずベーシックインカムを解説しておくほうがいいでしょう。ベーシックインカムは、毎月一定の金額のおかねを全国民に支給するという制度です。
最近だと、AIとロボットの時代に、どうしたら安楽な暮らしを実現できるのかという議論で、ベーシックインカムはよく議題にのぼっています。ヒトの仕事をAIとロボットが奪ってしまったとしても、それで経済成長ができてビッグテックのような企業が利益を出し続けられるのなら、その利益を税金として国が徴収し、ベーシックインカムにして国民に分配すればいい。そうすれば仕事は奪われても、収入は確保できるという議論があるようです。
しかしベーシックインカムには、いくつかの問題が指摘されています。たとえば以下のようなものです。
(1)ただお金をもらうだけでは、人生の自由な選択ができなくなってしまう。大学に行こうと思ってもベーシックインカムだけでは入学金を用意できない。
(2)ただお金をもらうだけでは、責任感や倫理が失われてしまうかもしれない。一日じゅうスマホでゲームやってて、それで心が豊かになれるのか。
(3)ただお金をもらうだけでは、社会階層が固定されてしまう。アッパークラスを目指すことができなくなってしまう。
(4)早く亡くなるともらえる総額が少なくなって不公平ではないか。
(5)ベーシックインカムをほんとうに実現しようとすると、たいへんな巨額の予算が必要になる。現在の生活保護や年金などの制度をすべて停止してベーシックインカムに移行するぐらいの思いきったことをしなければ、実現できない。果たしてそんなことが可能なのか。
ベーシックインカムで生活費をすべて支給するのではなく、一部だけを援助するという方法も考えられています。たとえば月々の生活費がひとり20万円必要だとしたら、5万円だけ支給して、残りは頑張って自分で稼いでもらうというやりかた。これはアメリカのカリフォルニア州にあるストックトン市で実験されたことがあり、毎月500ドルを2年間にわたって支給しました。
この500ドルでお金の余裕ができたことで、転職活動がしやすくなったり、失業中も交通費などにあてることができて仕事を見つけやすくなったという利点があったようです。健康状態もよくなったとか。
まだベーシックインカムを現実の政策として実現させた国はなく、試行錯誤が続いているようです。
さてベーシックキャピタルですが、この用語には定義の揺れがあります。スティグリッツの言うユニバーサル・ベーシックキャピタルは後回しにして、別のベーシックキャピタルを紹介してみましょう。アメリカの憲法学者ブルース・アッカーマンが提唱している「ステークホルダーグラント」がベーシックキャピタルのひとつとして有名です。
これはひとりひとりにまとまったお金を一度に渡し、それを投資で運用してもらうという制度です。具体的には21歳になる新成人全員にひとり8万ドル(日本円で1千万円ぐらい)をまとめて給付し、それを投資などで運用して収入にあててもらうというものです。ただしこの8万ドルと利子は、死亡時には国に返さないといけません。だから8万ドルをもらった人はすぐに浪費しないで、きちんと運用することが求められます。
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