マル激!メールマガジン 2022年7月6日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム
https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1108回)
日本の凋落を止めるためにやらなければならないこと
ゲスト:田内学氏(金融教育家、元ゴールドマン・サックス金利トレーダー)
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近年の日本の国政選挙では自民党が過去6度にわたり連続で勝利をおさめ、政権の座にとどまってきた。その間、特定秘密保護法の制定や集団的自衛権の容認、共謀罪の導入など、国論を二分する大きな政治的争点がいくつもあったが、そうした政策が選挙で厳しく問われたことは一度もなかった。
昨今の円安と物価高の下、さすがのアベノミクスもいい加減にメッキが剥がれてきた感が否めないが、翌週に迫った参院選の各党の公約などを見ると、なぜかアベノミクスに代わる経済政策が争点として打ち出されていない。有権者の多くは本当にこれまでの経済政策の継続を望んでいるのだろうか。
問題は目先の円安や物価高だけではない。日本は過去30年間、世界の中で唯一、ほとんど経済成長がなく、賃金の上昇もなく、あらゆる経済指標で世界の中でのランクを落としてきた。一時はジャパン・アズ・ナンバーワンとまで囃された日本が、今や先進国の中では大半の経済指標で最下位グループまで落ちており、時間の問題で先進国としてのステータスを失うところまで来ている。
確かにマスメディアがそうした問題をほとんど真正面から取り上げないので、日本の先行きに対する危機感が社会全体で共有されているとは言い難いが、それにしても国政選挙でそれが全く問われないという状況は異常としか言いようがない。
元ゴールドマン・サックス証券の日本国債の金利トレーダーで、現在は金融教育家としてトレーダー時代の経験をもとに独自の視点からおカネや経済の問題を若者らに解説している田内学氏は、昨今の円安とインフレは、これまで日本が抱えていた課題が一気に吹き出したものなので、インフレで困っている人を補助金で助けたり、金利を上げるなどの対症療法ではなく、根治治療が必要だと語る。そして、そこでいう日本の根本的な問題は、ひとえに人を育ててこなかったことにあると田内氏は言う。
経済政策を巡る議論は、とかく専門的になりがちで、結果的に経済学の流派間の神学論争的な様相を帯びる傾向がある。また、常に特定の定理を当てはめなければならないとされるなど、一般人にはなかなか取っつきにくいところがある。しかし、田内氏は自身のトレーダーとしての経験から、経済問題の本質はおカネではなく、「人」、とりわけ「誰が働くのか」という点にあるという独自の視点から、今日本が抱える問題を解説する。
「赤字国債を発行し続ければ早晩日本の財政は破綻する」という議論に対する、「自国で通貨を発行している国は財政破綻はしない」という議論について田内氏は、確かに通貨発行権を持つ日本はギリシャのような財政破綻はしないが、国内の生産力が低下し、政府の借金が国外の生産力に頼らなければならなくなれば、国民は必要な物資が手に入らなくなり、いつかは「経済破綻」することになる。
つまり借金の額や通貨発行権の有無といったおカネの話は本質的な問題ではなく、社会を支えるために働く人を日本が確保できているかどうかが根本問題なのだと田内氏は語る。
その観点から見た時、今の日本は非常に心配な点が多い。まず、人が生きていく上で必須となるエネルギーや食料の大半を輸入に依存している。エネルギー問題については先週のマル激でも議論したが、純国産のエネルギー源となり得る再生可能エネルギーを本気で増やそうとすらしていない。食料についても、コメだけは高い自給率を誇るのに対し、小麦や大豆は極端に輸入依存度が高く、昨今の物価高は円安と小麦価格の高騰が家畜の飼料や農業の肥料費を直撃した結果だ。
おカネの問題に目を奪われていては本質を見誤る。問題はどれだけ使うかではなく、どう使うかにある。そして日本が、世界が欲しがるモノやサービスを提供できる人を育て、最終的に日本で働く人の元にそのおカネが流れるようにすることが、最も重要な経済政策となると主張する田内氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・「通貨とは何か」という根本が抜け落ちた議論
・家計の借金と国の借金の大きな違い
・凋落が日本にとっての幸せでなければ、海外を見よ
・お金は人に働いてもらうためのカードである
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■「通貨とは何か」という根本が抜け落ちた議論
神保: 今回は「日本の凋落を止めるためにやらなければならないこと」という大きなテーマで議論したいと思います。放っておいたら日本はどんどんおちていくだろうということを前提に、「金融教育家」の田内学さんをお招きしました。聞き慣れない人も多いと思いますが、そもそも金融教育家というのはどういう意味でしょうか?
田内: お金儲けのことを教えているわけではなくて、僕はもともとゴールドマン・サックスという会社で、金利のトレーダーをしていました。デリバティブが中心でしたが、そこで日銀などの金利市場改革などに意見させていただいたり。経済というのは金利の分、お金が増えていくだろうと思われるわけですが、実際に取引していると、あるひとつの視点、誰かのお財布から見れば確かに増えているのですが、その代わりにどこかから移動しているだけで、お金自体は増えていないことがわかる。
そうすると、お金を増やすこと自体を考えても何の解決にもならないのだと。それでは、経済というのは何を増やすのか。また、日本国債はどうして破綻しないのか、ということも考えてきました。
なぜ「教育家」という話になったのかというと、この2〜3年で非常に問題だと思ったのが、例えば老後2000万円問題のような話があり、年金以外に2000万円貯めていたら老後はなんとかなるだろう、と言われていて。けれど、そもそもお金自体を増やすことがなかなか難しく、労働人口が減って生産力が足りなくなるのに、お金だけ持っている老人だらけになって、生活できるはずがない。これはお金に注目して考えているだけではなかなか気づかないことなんです。
根本的に考えないと、いま僕らが抱えている問題は解けないと考えて、そういう本を書きました。
神保: それが『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)で、これを書きたくてゴールドマン・サックスをやめたと。
田内: それは言い過ぎかもしれませんが、理由のひとつですね。こういうタイトルだと道徳の話でもするのかと思われるかもしれませんが、経済活動は働く人がいて成り立つことで、そこから考えないといけないだろうと。
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