第２７１回「誰も生んでくれと頼んだ覚えはないのです」

「どうして、生きていかなくちゃならないのですか？」 「生きていくのが辛すぎて、もう死にたい！」 とかとか、結構、皆、死にたがる人っているんですよね。 僕の周りでも、すんごく明るくて、可愛くて、 男子にモテて、一見、毎日すごく楽しそうな女子でも、 ちょっとよく見ると、手首にカッターがなんかで切った 傷跡があったりしてね。 「けっこう、リスカしてる子っているよ！」ってね、 ティーンの女子からそんな話をよく聞いたもんです。 本気で死にたいのかどうか、ただちょっと好奇心で そんなことをしてしまっているのか、わかりませんけどね。 思春期くらいになって、親と猛烈に喧嘩した時に、 こんな言葉が交わされます。 「そんな子に産んだ覚えはありません！」 「誰も、生んでくれとか頼んでない！」 よくある親子の売り言葉と買い言葉って奴ですね。 確かに、世の中、「生まれたいです。どうかお願いしますから、 生んでください！」と頼んで生まれてきた人って いませんよね。親が勝手にセックスして、勝手に生んだんですから。 何も、自分で望んで生まれてきた訳じゃないから、 自殺するのも自由！という理屈になっているんじゃないか、 と思うのです。 これはこれで、理屈的には合っているように思えます。 ただね、母親が、その人を生みおとす寸前まで、 その人自身は、この世には存在していない訳ですから、 生まれたいか生まれたくないか、判断するとか、訊いてくれとか そういうこと以前の話なんですよね。 でも、その人の自覚はないにせよ。自分は、生まれたくて 生まれてきたのは間違いのないことみたいなのです。 精子は、女性の膣内に放たれると、卵子を目指して、 一目散に泳いでいきます。受精したくてしょうがないのです。 その競争に勝った精子が卵子を妊娠させて、子供が生まれるのです。 その他にも、これは、生まれてきたくてしょうがないのだな、 と思われる現象がいっぱいあるのです。その結果、人間が 生まれてくる。 つまり、「生んでくれと頼んだ覚えは」なくても、 「生まれてきたい」と必死になって、その結果、 生まれてきたんですよ、人間っていうのはね。 ポイントは、その意識があるかどうか。当然、それはない。 意識とか記憶というのは、大脳の働きによるもの。 つまり、知性のなせる業。 人間、知性が中途半端に発達してしまったから故、 「生んでくれと頼んだ覚えはない」とか思って、 「だから、死んでもいいんだ」とか思ってしまう、 ということなのじゃないか、と思うのです。 僕も、人生で何度か、そんな気持ちを持ったこともあるけど、 「この先生きていりゃあ、もっといろいろなことを 経験できるかもしれない」という好奇心が勝ってしまって、 そこで、人生を絶つ、という気持ちにはなれませんでした。 ということ。だから、僕は、死ぬまで生きてみようと思っています。