ドクター畑地の診察室148.2022.7.10.
現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。
世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います!おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者(肺癌、喘息、COPD、肺炎など)を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説&ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信!
https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/
三重県出身 自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる
松阪市民病院院長
診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け!radioを聴いてらんらんらん(lung lung lung)」という毎週月曜日放送の番組を担当
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この30年で治療が進歩した病気、そうでない病気
私は1991年に大学を卒業し、医師になりました。以来、研修医期間を除き、呼吸器内科医として現在に至るまで仕事をしてきましたが、30年間で大きく呼吸器疾患の治療は進歩しました。呼吸器疾患の中でも進歩の程度には差があり、かなり薬物療法が進歩した病気とそうでない病気が混在している事は事実です。
学会参加者の数を見るとよくわかります。昔は講演会といえば“抗生剤”や“抗真菌剤”などの話が花形で、感染症学会は大いに盛り上がっていたような気がします。しかし現在ではどうでしょう。25年前は“治療しても、治療しなくても、あまり予後は変わらない”や“治療しても変わらないし、抗癌剤を打つと苦しいから打ったほうが損だ”など言われ、全然盛り上がっていなかった肺癌学会が今では1番盛り上がっているのではないでしょうか。逆に今は、新しく上市される抗生剤は特殊なものを除いてほとんどなく、感染症学会に参加する人は減少しているような気がします。参加者の数は正直で、治療が進歩している学会に多くの参加者が集まる傾向にあります。
肺癌の治療と同じように進歩したのは、喘息の治療です。吸入ステロイドが喘息に使用されるようになってかなり進歩したのですが、さらに気管支拡張剤と吸入ステロイドの配合剤が上市され、治療は更に進歩しました。ただ、きちんと吸入ステロイドを含む治療をおこなっても改善しなかった患者さんがいたことは事実であり、そのような人に対しては生物学的製剤が上市され、劇的に効果があることがわかってきています。
COPDや肺線維症といった呼吸不全を呈する疾患も進歩はしたのですが、肺癌と喘息に比べるとその進歩は少ないような気がします。
治療が進歩した疾患と進歩が少ない疾患の決定的な違いは何でしょうか。私は精密医療ができるか否かにかかってくると思います。例えば、肺癌に関して診断の段階で精密な腫瘍の遺伝子検査をおこない、癌になる原因遺伝子が特定された場合には、分子標的薬の治療により副作用が少なく、しかも効果的な治療が可能となりました。喘息の場合、特に重症喘息の場合ですが、生物学的製剤の使用を行うのですが“好酸球数” “呼気一酸化窒素” “IgE”などを測定することにより、ある程度どのタイプの生物学的製剤が効果的なのか予想がつくようになっています。
このように肺癌における“癌の原因遺伝子”、重症気管支喘息治療における“好酸球数” “呼気一酸化窒素” “lgE”のように治療に直接つながる指標のことをバイオマーカーと言い、このバイオマーカーによって疾患を細分化し、治療を組み立てていくことができるのかどうなのかと言うことがその疾患の治療の進歩に直接結びついている訳です。
今後、疾患の治療の進歩につながるのは、できるだけ簡単にバイオマーカーを見つけることができるようになるのかどうなのか、そのバイオマーカー別に異なった治療を適切に行うことができるのかどうなのかと言うことが肝心です。
今後様々な疾患によって適切でしかも簡便なバイオマーカーが見つけられ、疾患が精密に治療されるようになっていく医療が展開されるようになると思います。バイオマーカー別に治療が組み立てられない疾患の治療は、おそらく薬物療法に関しては進歩しないと思います。
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ドクター畑地の診察室148.2022.7.10号
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次号は2022.7.17.です。
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畑地 治
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