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佐々木俊尚の未来地図レポート 2022.7.18 Vol.713
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【今週のコンテンツ】
特集
性風俗はほんとうに「不健全」で「国民の道徳観念に反する」のか
〜〜〜〜「性行為の自由」についてリベラリズム的観点から考える
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
性風俗はほんとうに「不健全」で「国民の道徳観念に反する」のか
〜〜〜〜「性行為の自由」についてリベラリズム的観点から考える
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新型コロナで事業者に支給されてきた国の「持続化給付金」が、性風俗の業者は対象外にされていた問題が議論を呼んでいます。業者の側が「憲法で保障されている法の下の平等に反する」と裁判に訴えていたのですが、東京地裁が先月末に「合憲」と却下しました。その理由として裁判所はこんな風に言っています。
「一時の性的好奇心を満たし、性的好奇心をそそるためのサービスを提供する性風俗は、大多数の国民が共有する性的道義観念に反する」
また被告だった国の側は、裁判でこう主張していました。
「性風俗業者は本質的に不健全」
たしかに性風俗は「不健全」であり「道義観念に反する」のでしょう。しかし不健全で不道徳だからと言って、給付金を配らないというところまで国が踏み込んで判断してしまって良いのか。業者側の弁護団の平裕介弁護士は、判決のあとの会見でこう語っています。
「差別を助長している。司法がそのような役割を果たしてしまったことはたいへん問題があるし、残念に思っている」
この判決については、わたしも出演していた7月4日の番組『アベマプライム』でも取りあげられました。番組で紗倉まなさんは、こう指摘されていました。
「人の価値観によって不健全だとか、汚らわしいとか、そういう感情を抱くカテゴリーであることはわかる。ただ、それを行政や司法が露骨に主張することが信じがたい。『国民感情が』というのは理由になってないと思うし、需要があって、産業として成立しているという事実を抜きにして議論するのは、職業差別を助長するだけだと思う」
ほんとうにその通りだと思うし、そもそも性産業が不健全だというのであれば、それは業者の側だけでなく、客の側も不健全なのではないでしょうか。判決には以下のようなことも書かれています。
「性行為はきわめて親密で特殊な関係性の中において、非公然と行われるべきであるという観念は、大多数の国民にひろく共有されている」
そう思っているかたはたしかに多いのでしょう。しかしそれはマジョリティの論理です。あらゆる人びとが「親密な関係のなかで非公然と性行為をおこなえる」
環境にあるわけではありません。そもそも性の多様化も進んでいます。たとえば「レズビアン風俗」と呼ばれるような業態も現れていて、これは必ずしもレズビアンの女性客だけでなく、バイセクシャルやトランスジェンダーの人もお客さんとしているという話を業界の人から聞いたことがあります。性が多様化するなかで、「親密な関係性のなかの非公然の性行為」だけでは対応できなくなってきているということがあるのではないでしょうか。
いっぽうで、恋愛弱者となってしまっている男性も現代にはたくさんいます。かつて自由な恋愛は、封建的な抑圧からの解放の象徴でした。
しかし古い抑圧がなくなってだれもが自由な恋愛を楽しめるようになった結果、恋愛に強くモテる男の「勝者総どり」になってしまい、モテない男性は恋愛ができなくなるというジャングル状態になってしまっています。そして生涯未婚率も男女ともに上がっています。結婚していない彼ら彼女らに「性行為はあきらめよ」と言うのでしょうか。モテない男性以外にも、たとえば障がいのある人の性行為など社会であまり語られていない現実はたくさんあると思います。
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