1. 政策ができてからビジネスを考えるのではなく、ビジネスに合った政策提案を
岸田総理の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」が 7月に閣議決定されました。計画の中では新しい資本主義の思想をこのように表現しています。
1)「市場も国家も」、「官も民も」によって課題を解決すること、
2)課題解決を通じて新たな市場を創る、すなわち社会的課題解決と経済成長の二兎を実現すること、
官民で課題に取り組み、経済成長も実現する、というのは最近の政策立案のトレンドです。
かつては、社会課題の解決は役所の専売特許のようなイメージがあり、公や社会のことを考えるのは役所の仕事と考えているビジネスパーソンも多かったように思います。
公共のための仕事をするためには公務員にならなくては、と考えて公務員になった人も多かったでしょう。ところは最近では、民間企業の「技術」と役所の「制度設計」の合わせ技で社会課題を解決する例も多くなってきているのです。
例えば、ここ数年でオンライン診療が急速に普及しました。
これは、コロナ禍で人と接触せず医療を提供しなければならない、遠隔地にも質の高い医療を提供しなければならないという課題を解決するために、
(1)対面と同じようにコミュニケーションをとれるシステム開発の「技術」と
(2)オンライン診療を安全に実施するためのガイドラインづくりやオンライン診療への保険適用などの「制度設計」
の両方がなされたことで実現されたものです。
日本の医療は、そのほとんどが公的医療保険によってカバーされる保険診療です(保険診療とは平たく言うと健康保険証が使える医療のことで、原則3割の自己負担で医療が受けられます。保険診療以外に美容整形や新しい治療など全額自費の自由診療もあります。)。
したがって、オンライン診療も例外ではなく、医療保険の対象となることにより、市場が急拡大します。マーケティング会社の富士経済は、106億円の市場が2035年までに生まれると推測しています。
制度が整えられることで、これまでなかった市場を創り出せるのです。しかも、医療のアクセス改善などの社会課題の解決もできる形でです。他にも、モビリティのラストワンマイル問題を解決するために電動キックボードの規制緩和が実現したことで、気軽に電動キックボードをレンタルできるようになったことも記憶に新しいでしょう。
社会課題解決を前提にした経済活動も活発になってきています。
企業に社会課題の解決や環境への取組、ガバナンスの確保についても投資の判断基準とするESG投資という手法も機関投資家が採用し始めています。
また、2017年の世界経済フォーラムでは、SDGs(貧困や、ジェンダー平等など、世界が解決すべき課題ごとの目標)を踏まえたビジネスで経済的な利益が得られることも明らかにされました。
かつては社会課題の解決といえば、役所やNPOの仕事と考えられていた時代もありましたが、もはや、社会課題を解決することとビジネスの拡大は、両立しなければならないものであるし、また、相反するものではなくなってきているのです。
ひと昔前なら、役所が決めた政策の流れに迅速に追従していくことで、ビジネスが成立していたかもしれませんが、もうそのやり方は時代遅れです。
社会課題の解決の責任の一端をビジネス領域にも求めることは、政策領域でもビジネス領域でも共通の潮流になってきていますので、、社会課題の解決に向けて、現場をよく知る民間企業や団体が、政府に対してスジのいい制度の提案することが、むしろ求められているともいえます。
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