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【Vol.446】冷泉彰彦のプリンストン通信『傷ついたニューヨーク』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「氷河期の歴史認識をアップデートする」  90年代から一気に「新卒採用を減らした」のは、企業の収益力が落ちた からです。それはバブルが崩壊したからではありません。その前から、日本 の企業の成長率は落ちていたのです。70年代には「ソフトウェア技術者は 理解不能な専門職なので管理職にしない」というバカな判断をしてDXの芽 を潰し、80年代には「たかが弱電と自動車」の成功に酔いしれて次の研究 開発を怠り、同時に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと驕り高ぶって 国際化対応をサボったわけです。  実はバブル崩壊はそのような「競争力喪失の結果」でした。そしてこれに 対して、各企業は目先のコスト削減に邁進しました。そこで新卒採用をケチ り、育成をケチり、こともあろうに研究開発費をケチったのです。  何のためか、それは巨大な「間接部門のホワイトカラー」という何も生み 出さない貴族階級を守るるためでした。この貴族階級を守るために、紙と日 本語と対面コミュニケーションによる非効率な「事務作業」を延々と続け、 電算化どころか標準化もしませんでした。その一方で、国際化による24時 間体制と英語日本語の二度手間は増やし、同時に形式主義のコンプラという 馬鹿馬鹿しい官僚主義に染まって書類だけは増えていったのです。  平成の30年は、そのようにして過ぎました。日本経済は技術力の喪失に より敗北に次ぐ敗北を続けて、坂道を転がり落ちて行きました。ですが、既 得権益を持った「総合職のホワイトカラー」だけは解雇禁止の労働法に守ら れてヌクニクと紙と日本語と対面の世界で高給を得ていたわけです。  事務部門の人件費を払うために、景気が悪くなると収益の上がっている部 分をどんどん切り売りする企業も増えました。LEDパネルはソニーが発明 したものですが、大型のものは実用化前に韓国に売却してしまいました。多 くの家電メーカーは、各国の消費者のニーズを英語で理解するのは面倒なの で冷蔵庫や洗濯機のビジネスは中国に売ってしまいました。その一方で、新 しいアイディアにチャレンジするのも怖がって、静かに滅びの道を辿ったの です。  家電や自動車の産業を、韓国や中国に譲るのはいいんです。その後で、A I、メタ、宇宙航空、バイオ、金融などの知的産業でもっと高い付加価値を 追求すればいいのです。ですが、そうしたチャレンジをする優秀な人材は少 ないし、大企業でトップに行く人はリスクを取らないことで偉くなっただけ だしということで、日本は最初から負けていました。そもそも投資を引っ張 ろうにも、日本国内の個人金融資産は高齢層の老後資金なので、リスクのあ る投資資金はないのです。  ということで、全体が負けていった、そこに問題があります。若者を食い 物にして、国際競争力を維持したというのは間違いではありません。ですが、 そもそも全体的に負けていたのが問題であり、官僚組織をポリティクスだけ で上り詰めた無能な経営者たちが誤った判断を続けた、そして30年にわた る奇跡の連続衰退という、中国の万暦帝や乾隆帝も真っ青の歴史上の「前人 未到の世界」に入ってしまった、そこを追及して行くべきです。

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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