池田清彦のやせ我慢日記
/ 2022年9月9日発行 /Vol.223
INDEX
【1】やせ我慢日記~なぜカルト宗教にはまるのか?~
【2】生物学もの知り帖~ハエトリグモも夢を見ている?~
【3】Q&A
【4】お知らせ
『なぜカルト宗教にはまるのか?』
安倍元首相殺害の山上容疑者は、母親が家族を顧みずにのめり込んだ統一教会に肩入れしていた安倍元首相が許せなかったとのことだが、一部の人はなぜカルト宗教に夢中になるのだろうか。山上容疑者の母親は、統一教会に入信する前にも「朝起会」という宗教にはまって、子どもを放り出して朝早くから宗教の集まりに出かけていたようだ。
この母親はよく夫に怒鳴られていたというので、夫から逃げたい一心で宗教に夢中になったという面もないわけではないだろうが、夫がノイローゼになって自殺した後も、行動を改めることもなく、夫の遺産を全部統一教会にお布施として差し出しており、お布施の総額は1億円にも上るとのこと。家庭は極貧になり山上容疑者の兄も自殺し、山上容疑者も大学に進学するお金がなくて高卒で終わっている。
山上容疑者が逮捕された後も、この母親は信仰をやめないようで、なぜそこまでカルト宗教にはまるのか理解に苦しむ、というのがごく普通の反応だろう。敬虔な宗教家であっても、実の子供を犠牲にしてまで入れ込む人はまずいない。この母親の脳は、相当いかれているのだろうと思わざるを得ない。
そもそもなぜ一部の人はとことん宗教を信じるのか。人間以外の動物には宗教といったものはない。宗教は、動物に比べて大きくなりすぎたヒトの脳が作ったファンタジーだからだ。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教(これらの宗教の起源は同一で、ユダヤ教からキリスト教が派生し、キリスト教からイスラム教が派生した)などの世界宗教になった一神教の起源は、高々3300年前である。
これは独裁的な帝国の出現と軌を一にしている。その前にも宗教はもちろんあったが、主としてアニミズム的な多神教で、一神教は稀であったと思われる。絶対神は独裁的な帝国のもとで、この世に絶望した奴隷状態の人々が死後のバラ色の世界を夢想したことと強い相関があることは間違いなく、それ以前の狩猟採集生活をしていた人類は、現世の暮らしにそれほど絶望していたわけではなかったので、極端な一神教は発生しなかったのであろう。
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