メルマガ読むならアプリが便利
アプリで開く

【Vol.448】冷泉彰彦のプリンストン通信『英女王国葬と国のかたち』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「台風報道に見る、5つの違和感」  台風14号の威力は恐ろしいほどで、とにかく上がる寸前まで915hp aとか、上がっても930とか、延々と陸上を移動してもまだ980だとか、 モンスターだとしか言いようがありません。そうなのですが、遠くから日本 の報道を見ていると、違和感ばかりが目に付きます。5点、議論したいと思 います。 1)報道に切迫感がありません。とにかく、大した風も吹いていないのに、 ホテルの部屋から「安全なところからお伝えしています」などと断りを入れ て生中継するのは止めていただきたいです。  昭和の昔がいいとは言いませんが、報道関係者には危機回避のノウハウは 残っているのですから、多少キツくても雨に濡れ、風に吹かれて「視聴者の 危機感を喚起する」映像を届けて欲しいと思います。  働き方改革の問題があったり、そもそもメディアが資金力を失っている、 あるいは雲仙岳の悲惨な事故以来は厳しい事情があるのはわかります。です が、仮にそうであっても、もっとリアルな映像で危機感を喚起する、そのた めには無人ドローンでも、遠隔のカメラでもいいわけで、とにかく「百聞は 一見にしかず」なのですから、工夫していただきたいと思います。  大きな理由としては、「マスゴミが危険を冒して報道すると、社会に迷惑 をかける」という種類の理不尽な視聴者からのカスハラで、これで疲弊して いる面はあると思います。ですが、これも信念があればバッサリできるはず です。 2)昔から気になっているのですが、「命を守る行動を」という言い方には 違和感があります。とにかく、そんな日本語はないし、そもそも人間には危 機回避本能があるのですが、その本能を刺激「しない」言葉だと思うからで す。自分の命に危険が迫るのは「怖い」、という感覚を刺激しないのです。  どういうことかというと、危険が切迫していて命に関わるのだが、「お前 はそこまでの切迫感を感じていないだろう」という、見下した上から目線が 薄っすらと感じられる一方で、それに「迷惑だから死なないでくれ」的な身 勝手さが乗っかっているからです。そのくせ、初期にはあった「違和感が刺 激になる」効果が消えて、日本語に特に多くある「強く言えば言うほど陳腐 化が加速する」という現象も出てきているようです。  そういえば、「土砂崩れ」を「土砂災害」と言い換えているのも気に入り ません。どう考えても「土砂崩れ」のほうが怖いので、注意喚起になるはず です。もしかしたら、過去の被災経験者のPTSDなどを配慮する必要があ るのかもしれませんが、それで表現をソフトにして、逃げ遅れた人が死んだ ら元も子もありません。 3)腹が立つほど健忘症だということもあります。今回は中心気圧が低く、 強風被害の可能性が大きいわけです。だったら、すぐに想起されるのが20 19年の房総における台風15号の被害です。多くの家の屋根が破壊され、 例えばゴルフ練習場の倒壊など多くの被害が出ました。  今回も、鹿児島市でクレーンが折れるなどの問題が起きていますが、もっ ともっと過去の被害に触れながら注意喚起することは必要と思います。豪雨 対策という面では、今回はダムの緊急放流が非常に多く発生しています。こ れも、2018年の西日本豪雨における愛媛県の肱川で起きた悲劇が教訓に なっていると思います。  この緊急放流の問題は、この肱川の悲劇とともに語る必要があると思いま す。球磨川の問題もそうですが、現在進行形の台風被害に関して、少ない情 報を繰り返し伝えるだけではなく、過去の事例を交えて、「この種類の被害 を防ぐには」という経験に根ざした警告をすべきと思います。  過去というと、やれ「室戸台風」とか「伊勢湾台風」などと、昭和の大昔 の話を持ち出すのも違和感があります。そういうことではなくて、数年前の 具体的な記憶をしっかり共有し、防災に役立てていただきたいのです。 (つづく)

この続きを見るには

この記事は約 NaN 分で読めます( NaN 文字 / 画像 NaN 枚)
これはバックナンバーです
  • シェアする
まぐまぐリーダーアプリ ダウンロードはこちら
  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
  • 880円 / 月(税込)
  • 毎月 第1火曜日・第2火曜日・第3火曜日・第4火曜日