ドクター畑地の診察室159.2022.9.25.
現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。
世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います!おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者(肺癌、喘息、COPD、肺炎など)を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説&ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信!
https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/
三重県出身 自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる
松阪市民病院院長
診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け!radioを聴いてらんらんらん(lung lung lung)」という毎週月曜日放送の番組を担当
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しゃっくり
私が研修医の時代、抗癌剤の治療は地獄でした。当時1番効果があると言われていたシスプラチンの抗癌剤を投与すると、1日に患者さんが20回以上トイレで嘔吐していました。肺癌患者さんに対してシスプラチンベースの抗癌剤を使った時、平均生存期間は伸びるのですが、そんなに苦しい思いをして投与するのは果たしてどうなのかいつも疑問に思っていたものです。
今はどうでしょうか。投与すると最も気分が悪くなると言われているシスプラチンを使ってさえも、嘔吐している人は皆無となりました。30年前と比較すると、制吐剤は著しい進歩を遂げました。
皆さんは考えたことがないかもしれませんが、抗癌剤による嘔気は3種類あります。投与を行った当日に出現する“急性の嘔気”、翌日から起こってくる何となく嘔気が続いて食事が食べられなくなる“遅発性の嘔気”、抗癌剤を投与した経験から抗癌剤を見ただけで嘔吐してしまう“予期性の嘔気”です。
まず改善されたのが急性の嘔気でした。5-HT3受容体拮抗薬という種類の制吐剤が上市され、少なくとも投与後に20回も30回も嘔吐するような事は消失しました。遅発性の嘔気に対しては、ステロイドと併用することによりシスプラチン以外の抗癌剤ならば、どうにか我慢できるレベルまで改善したのではないでしょうか。しかし、嘔吐してしまう患者さんはいましたし、投与翌日からは食事が食べられない状態が続いたことは事実です。
遅発性の嘔気に対する薬が上市されたのは、今から10年ほど前です。NK-1受容体拮抗薬のアプレピタントという薬が上市され、翌日からの食欲不振もほとんどなくなりました。しかし、一部の抗癌剤を使用した際には若干の食欲不振などが出現することはありますが、オランザピンという向精神薬を上乗せすると、ほとんど不自由を感じることなくどのような抗癌剤治療でもできるようになった気がします。
さらに最近では5-HT3受容体拮抗薬ではパロノセトロン、NK-1受容体拮抗薬ではネツピタントといった新しい薬が上市され、ほとんど嘔気に悩まされる事なく抗癌剤点滴を受けられるようになりました。
ただ最近思うのですが、強力な制吐剤を投与すると、かなりの頻度でしゃっくりが出ます。特にNK-1受容体拮抗薬を使用すると、しゃっくりが出て止まりにくいという副作用が出現します。
嘔気に比べるとずいぶんとマシなのですが、患者さんにとっては困ったものです。事前に“抗癌剤を使用するとしゃっくりをきたすことがある”と説明が必要になってきているような気がします。
つい先日、松阪市の応急診療所で診察する機会がありました。その際、“しゃっくりが止まらない”と受診した患者さんがいたのですが、その患者さんに“今日、抗癌剤を投与しませんでしたか?”と聞いたら案の定、今日抗がん剤を打ったとの事でした。おそらく抗癌剤を打つ際に、制吐剤として強力な制吐剤を使用したのだと思います。その旨を患者さんにお話しし、“なかなか今すぐにしゃっくりを止めることができないが、しばらくすると必ず止まってくるので安心してください”と話して帰宅してもらいました。(あくまでも私の印象ですが、制吐剤に向精神薬を上乗せすると、しゃっくりが起こる頻度が下がるような気がします。)
しゃっくりをきたす病気と言うとすぐ思い浮かぶのは、“抗癌剤投与後制吐剤を使用した時”と“球後視神経炎という神経内科的な難病の初発症状”です。しゃっくりは舌根圧迫すると止まることが多く、通常のしゃっくりだとそれだけで止まってしまいます。
しかし抗癌剤投与後のしゃっくりは数日間続くことも多く、注意することが必要です。いずれにせよ、しゃっくりが続く時はいちど主治医の先生に相談してみることをおすすめします。
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ドクター畑地の診察室159.2022.9.25号
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次号は2022.10.3.です。
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